眠らない街の眠れない夜   第六話
 
 
〜そして、しつこく続いている悲喜劇
 
「俺の、せいなんだろう?お前が出て行ったのは、この街から逃げたのは」
「直・・・。それもある、が俺が出て行ったのはこの街では、俺はシャリア・ラントス以外のものにはなれなかった。誰もが俺をシャリアだとしか見なかった。あの一族の最後の一人としか。現にお前、俺が公務員と聞いて激しく拒否反応起こしたな?」
「ス、スミマセン・・・」
シャリア秘儀・シリアスモード返し。
「いい。謝ってほしいわけじゃない。ただ、俺ではない俺になってみたかった。信じてくれはしないかと思うが、帰ってくるつもりだった。お前たちがそうだったように俺も俺がシャリア・ラントスであることを疑っていなかった。どうせすぐに我慢が効かなくなる。もしくは、飽きる。とね。結婚して子供が出来るなんてこれっぽっちも考えてなかった」
「だろうな」
何か云ったか?
「イエ、ゼンゼン」
「まぁ、そんなこんなで20年経ったわけだ。思った以上に性に合っていた。20年・・・、そうか、もう20年も経ったんだな、あれから・・・」
「別に、俺は意外だとは思わないよ。お前は優しくて、根気強くて、いいやつだった。平穏な家庭だって十分似合ってたよ。きっと・・・」
と、和やかな方向に話が収まりかけた・・・・、勿論そうは問屋が卸さない。いや、元々その収束さえも見せ掛けなだが・・・
「へええええええええ、そうだったんだぁ」
「もう、何が意外ってシーちゃんの出奔した理由だよねー」
「そうそう、あれから随分経ってから気付いた話、シャリアが行方くらましたのが・・・」
「オスカーの誕生日のすぐ後だったんだよねー。12の
「あの当時、誰も気付かなかったんだけど・・・」
「シャリア、まさか・・・」
さっきまで、好き勝手野次を飛ばしていた三人が乱入してくる。
それもちょっとはある
「威張らんでもいい、威張らんでも」
「にしても、よく気付いたねー、さっすがシーちゃん」
「?見れば一目瞭然だっただろう?」
「すまんな、私たちは翌年真沙輝が泣きながら喚くまで、全然、さっぱり、まったく、気付かなかったぞ」
そんな風に熱い友情でもみくちゃにされているシャリアの背後でぽそりと。
「で?俺から逃げたのは何割?」
「8割」
ついうっかり本当のことを答えてしまって口元に手をあてる。
ぷちっ(何かの切れる音)
「シャリア!手前!そういうのを「主な理由」ってんだろうが!」
「当たり前だ!隙あらば押し倒そうと虎視眈々と人の貞操狙ってる男と四六時中一緒にいたいと思う男が何処に居る!」
「それこそ当たり前だ!惚れた相手を押し倒したいと思うのは!」
「生憎と俺に男に押し倒されて喜ぶ趣味はない!」
「押し倒して喜ぶ趣味は、あるんだ俺は!お前限定だけどな!(もう一人居るけどな:超小声)」
「(それは同感だ:上に同じ)」
「くどいようだが、俺はお前のことをこの上なく、愛しているんだ!」
「俺だって咲子さんのことをこの上なく愛しとるわ!ボケ!」
「だったら解かるだろうが!男なんて所詮本能の赴くままなんだよ!」
「俺は、お前とは違う」
「その、冷ややかな目もこの上なくそそるんですけど」
「この目は地だ」
「俺は、お前に始めてあった時、運命感じたよ?」
「俺は、お前に始めてあった時、出血多量で意識が朦朧としてた」
「シャリアが俺に始めて言った言葉覚えてる?傷口抑えながら『誰だお前は』って言ったんだよね」
「覚えとるわ。お前あのとき丸々5分は放心しとったな?」
「神様に感謝してたんだよ」
会話は何処までも平行線だった。つーか、意思の疎通ゼロ。
 
 
〜KINGDOM−子供たちの王国
 
「むむむ、お父様、もう一押しですわよ」
無理だ。
「でも、咲子小母様はどちらにいかれたのでしょう?」
直樹とリサの娘、鈴子・クレイマーと、ディヴァインとサラの娘、蝶子・ウォーロックである。
金髪碧眼白い肌の鈴子は黒いドレス、黒髪黒目黒い肌の蝶子は白いドレス。お揃いで人形のようだ。
「つーかさあ、蝶子ちゃん、鈴子ちゃんもうちょっと違うとこに疑問持たない?」
とってもマイペースな二人に引きずられることなく、昇梧がラジオをがんがんとたたく。
「むー?うちの父さん何処消えたんだろう?とか?」
「いや、大理、違うくて・・・。いや、確かに伝説のルーシェン様の居場所も気になるけど」
何しろ仏滅の魔王なのだ。気になることは気になる。
「父さんが、父さんがシャリア・ラントスだったなんて・・・知らなかったとはいえ、ああーんなことや、こおーんなことを言ってなんて・・・だって、だって知らなかったんだよー」
望・イシェア・カナ・マクレーンが頭を抱えてブツブツとなんだか薄暗い感じに落ち込んでいる。
中でも一番望を落ち込ませていたのが、「俺、四天王の中でシャリア様が一番好きーーーーvvvすっげーかっこいーーー!俺も大きくなったらシャリア様みたいになるーーーーーvvvvv」と、本人の前でほざいたことだった。あの時の父親は一体どんな表情をしていただろうか?どうも、よく覚えていない。唯一の救いはそのすぐ後に母親が「お母さんも、シャリア様が一番好きーーーvvvどんな方だったのかしら?お綺麗で、お強くて、お優しいと聞いているのだけど・・・」といったことだろうか?
望にしてみれば、四天王や三柱の話はただの御伽噺だった。
夜眠る前に母が目をキラキラ輝かせて語ってくれた、伝説だった。
近所の幼馴染の親たちがその伝説の登場人物だということは知っていたが。
しかし、望には少し遠い話だったのだ。
「って、それは解かったから、望ーーー帰ってこーい」
鈴子と蝶子が10歳、昇梧が9歳、望が8歳で大理が7歳見事に続いているが、まあとにかくこいつらは近所の友達なのだ。
それでなくとも、パーティーに子供はそう多くない。
必然固まって遊ぶのである。
「大丈夫ですわよ、昇梧君。なるようになりますわ」
「ええ、そうですわ、そうですわ。今日は大丈夫ですわ。四天王、三柱、他のかたがたも揃っていますもの」
「・・・・・・・だから危ないんじゃないか」
「何やっとんの?お前たち」
「お母様!」
「「「「サラ小母様!」」」」
「ラジオ?なぁに?面白いもんでもやっとるの?それより、お前たちも支度しぃや。もう、時間やし・・・」
と、黒衣の女占い師は一枚のカードを口元に寄せた。そのカードは。
THE WORLD
 
 
〜自称・カール・クレイマー画伯のファン
 
曾祖母モドキと別れて、ユリアンや真雪と合流しようと足を速めていた柏美時である。
「あち」
別に熱かったわけではない。人にぶつかって、ただ単に反射で出たのだ。
「失礼、余所見を・・・」
おざなりに謝り、立ち去ろうとしたところその腕を強くつかまれた。
そのとき美時は初めてまともにその顔を見たのである。
(げっ)
今現在、この世に四人しか居ない帝国軍元帥。
義眼の軍務尚書だった。
暫くその義眼でしげしげと美時を観察した、その指を滑らせ、前髪を避けてみた所で、一つうなずくと口を開いた。
「クレイマー少佐の身内のものか?」
「は?」
何でそっちに行くんだ。
「違うのか?」
「いぃいえ、確かにカール・クレイマー帝国軍少佐の甥ですが・・・」
その答えに満足したかのように手を離した軍務尚書から、自分のペースを取り戻すかのごとく今度は自らの手で少し長めの前髪を掻き揚げる。
「今、この顔見て兄ちゃんの甥かって訊きましたよね?」
真っ当な帝国軍人なら、他に訊くことがあるはずだ。
「ああ、そのことか。気にすることはない。クレイマー少佐とは個人的に親交があるのだ。いや、クレイマー画伯といったほうが正確か・・・」
「へー、兄ちゃんも妙な友達もってること。ドライアイスの剣ねえ。まあ、母さんの絶対零度の微笑よりはましか。あ、本人の前で失礼」
わざとだろ?美時・・・。
「気にしていない。質問があるのだ。今云ったお前の母親とは誰だ?つまり、クレイマー少佐の絵のモデルは」
「えーと・・・?」
「お前の父親なら知っている。クレイマー少佐の個人データを調べればすぐにわかった。多少、解かり辛くはしてあったがな」
「あー、そういやあ婆ちゃんからそんな話を聞いた覚えも・・・」
ここで云う婆ちゃんとは誰あろう、レティシア・ヤン・クレイマーのことである。
彼女は心ならずも御年24歳で2児の祖母になってしまっていたのだ。
まぁ、そんなことはどうでもいいとして。
「知っているのは私ぐらいだ。少なくとも、お前の顔を見て、開口一番カール・クレイマーの身内か?と訊く酔狂な人間は私ぐらいだということぐらいなら保証してやる」
「いやあ、相手の記憶力によると、もしかして言うかもしれない人間がこの会場に、あと、一人二人・・・」
という、美時の台詞は相手の可聴領域を越えていたようだ。
「クレイマー少佐の絵の評価は、本人も明言しているようにモデルによるところも大きい。ところが、どうやっても、そのクレイマー少佐曰くの「イトコの姉様」の正体がまったく掴めなかった」
「レティー婆ちゃんから辿れなかったんですね・・・」
同情の表情で相槌を打つ。
「お前の存在もまったく見受けられなかったが・・・?」
「俺たちは、戸籍上孤児なんでそれは無理でしょう」
慰めるようにして、片手を振る。いくらオーベルシュタインが有能でも、オーディンに居るかぎり、判明することはまずない「事実」だ。
「たち?」
「俺、双子の妹が居るんですよね。残念だな。真雪も一緒にいたら、俺たちの母親なんてすぐにわかったのに。貴方が今俺の顔見てわかったように、俺の妹の真雪も母に瓜二つなんですよ。閣下」
「あの男に、子供が二人も居るのか・・・?」
「別に、実名言っても構いませんよ?今までも、別に隠してたってわけじゃないし。この会場に来てる時点で、バラシに来たって云ってるようなものだし」
義眼が器用にも戸惑うように揺らぐ。
「あ、父さんと母さんに不利益もたらそうとしてるわけじゃないですよ?別に、今更スキャンダルってわけでもないだろうし、特に父さん。そうじゃなくって、父と母のためなんです。子供が居るってわかれば、無理も通しやすいでしょう?」
「なんの・・・話だ?」
「今、この状況が、父と母にとって邪魔だってことですよ。カール兄ちゃんが母さんの正体を貴方に「教えられなかった」ことも邪魔の一環です」
肩をすくめて、小春日のように笑う。こいつの父親なら絶対しないであろう表情だ。
「俺、さっき言いましたよね?妹がこの場に居ればすぐにわかるって。閣下はご存知なんですよ。俺の母親を。少なくとも、絶対に顔は知ってる」
笑みが更に深まる。
「見て驚いてください」
「・・・・っ」
「まぁ、とりあえず、ウチの妹があっちのほうに居るみたいなんで一緒に行きませんか?」
なんで、この子供はこんなにご機嫌なんだ。そう思わずに入られないオーベルシュタインだった。
 
そのころ、彼の妹は「開口一番カールの身内だろう、と突っ込む酔狂な」「もう一人二人しか居ない人間」に指差されて驚かれていた。
 
 
〜じゃじゃ馬?お転婆?最終兵器?そして、合流?
 
(あ、真雪ちゃんだ、美時凄い。本当に居た)
タタタとユリアンは真雪に駆け寄ろうとした。
いや、止めとけユリアン。行かないほうがいいぞ。切実に。
しかし、もちろんそんな制止が聞こえるはずもなく、ユリアンは真雪と再開していた。
「真雪ちゃーん」
「あ、ユリアン!ねぇ、もう、聞いてよ!・・・・・」
しかし、ユリアンは聞いていなかった。
振り向いた真雪の目に絶句していたのだ。
「ゆ、雪ちゃ・・・その、め・・・」
「うん!そーなの!酷いでしょ?ホラ見てよ!あの人たちがイキナリ驚かすもんだから、コンタクト、コップの中に落としちゃったのよ!?」
シェーンコップと対戦したときでも落ちなかったのになあ。何でだろうなあ。
そんなことはともかく、真雪はグラスを明かりに透かす。確かに黒いコンタクトが二つ水の中に落ちている。
「まーいっか。元々目ぇ悪いわけでもないし、パパとママはウチ帰ってきたし・・・」
ふん、と詰まらなさそうに息を吐く。が
「ちょーーーーーーーーとまて!なんだ!お前!その目!」
「失礼、フロイライン。貴方はヤン元帥のご令嬢ではないのですか?」
くるりん、と擬音語付きでふりむき、ピシ!と両提督をさす。
「なーーーによ!文句あるの?これは生まれつきの雪の目よ!?別に、後から移植したわけでもない!なによ!ちょっとばかし珍しいからって、コレくらいでいちいち騒ぐことないと思うのよね?だから、私は何時も何時もコンタクトはずせないじゃない!」
いや、違うだろ・・・ってお前もわざとか、真雪・・・。
「い、いや、そうじゃなくて・・・」
「ご、ご気分を害されたのでしたら失礼を・・・」
「真雪ちゃん、でも、それって・・・」
「なによ、ユリアン。ママが居ればパパが居るのが道理でしょ?」
と、ジト目でにらむ真雪の嫌がらせを遮ったのは、意外な方向からの声だった。
「ビッテンフェルト!ミュラー!卿ら、カールを見なかったか!?カール・クレイマー少佐!」
息を切らせた銀河帝国皇帝だった。
自然、その二人が詰め寄っている少女に目が向いた。が、その皇帝の反応は誰の予想とも違っていた。
「あーーーー、お前!覚えてるぞ。久しぶりだなあ」
真雪は一瞬目をどんぐりの形にさせて驚いたが、すぐにちょっとかっこつけて、余裕の笑みで返した。
速い話が母親のまねっこである。
「どなたかしら?お会いした覚えがないわ」
「以前あっただろう?俺がまだ幼年学校のときに」
珍しくもラインハルトが親しげに返す。
「以前、親戚の面会に行って似たような方にならお会いした覚えはあるのだけれど」
その、いたずらっぽい目にラインハルトはようやっと気が付いた。
にこりと笑って、こちらも格好つけて右手を差し出す。
「失礼した、フロイライン。私はラインハルト・フォン・ローエングラム。銀河帝国皇帝だ」
「お久しぶり!ミューゼルのお兄ちゃん。あの時はわざわざ私のコンタクト踏み壊してくれて有難う」
「今なら、いくらだって弁償してやれるぞ。あのあと親に怒られなかったか?」
「うん!大丈夫だった!それにしてもハルトお兄ちゃんよく私のこと覚えてたね。随分前に一回しか合わなかったのに」
「そりゃあ、なんと言ってもお前たちはインパクト強かったからな。フェザーン人の子供なんてはじめて間近でみたことだし。そう、お前、兄はどうした?双子だったよな」
「もっちろん来てるよ!でも流石に私たちの名前までは覚えてないよね・・・」
なんでだろう?なんでこの二人は和気藹々と会話してるんだろう。
しかし、会話のノリが小学校高学年と高校生に見える・・・。
「いや・・・ちょっとまて、今思い出す。白っぽい名前だったよな。たしか、カールが・・・」
(カール?はて、カール?俺は今、そのカールを探していたのではなかったか?しかも、その理由が・・・)
「お前・・・カールの従妹・・・だったか?」
「えー、違うよー。ちゃんと思い出してよ!」
「違いますよ、ラインハルト様。真雪ちゃんは・・・」
くすくす笑いながら、新婚で幸せいっぱいの赤毛の大公が現れて訂正を入れる。
「さっすが!ジークお兄ちゃん!よく私の名前覚えてるね!」
「カールが物凄く自慢してたからね。もう一人の名前は美時だったよね?おっと、そうじゃなかった。ラインハルト様。確か、真雪はカールの年の離れたお兄さんの娘でしたよ、っておや?」
「BINGOぉ!カールお兄ちゃんの姪っこの真雪でーーっす!」
お行儀悪く、その辺の食器をガチャガチャやって大正解をアピールする真雪を他所に、ラインハルトとキルヒアイスは、視線を落として考え込む。
(カール・クレイマーの年の離れた兄?自分はその名前を知っていたような?気のせいか?)
と、視線を上げるとそこには幼馴染が同じことをやっていた。
(気のせい・・・じゃ、ない・・・よな?)
と、いうか、この真雪の目を見てきづかないお前ら二人がおかしいんだ。
「真雪・・・確認したいんだが、カールにお前の父以外の兄弟はいないよ・・・な?」
「うん!居ないよ。ハルトお兄ちゃん!」
明瞭なお答え。
「「はああああああああああ!!!!!!!!????????」」
馬鹿だよ君たち。変なところで知識が繋がらないんだから。
「もしかして、今までぜんっぜん気付いてなかったのぉ?」
 
「アレが、お前の妹か?」
「そうですよ、閣下。真雪!」
「あ、時ちゃあん!」
「あ、どーも!ご無沙汰です。ハルトお兄ちゃん、ジークお兄ちゃん」
ぬいぐるみ化している二人に愛想よく適当に挨拶をする。
「ねえ、時ちゃん凄いのよ。二人とも私たちのこと覚えてたの!ジークお兄ちゃんなんかね、私たちの名前まで覚えてたのよ」
「へえ、そりゃすごい。とか云いたいけど、お前あのとき散々泣き喚いただろう」
「もう!それは無しぃ!」
「あ、真雪、忘れるとこだった。オーベルシュタイン元帥。カール兄ちゃんの友達なんだって」
「友達ぃ?ああ、ママの絶対零度の微笑よりはましか。はじめまして、閣下。柏真雪です」
「カシワ・・・?悪いが、やはり私にはあのモデルの少女と顔の造作が似ていることぐらいしかわからん・・・」
「アレ・・・少女じゃないですよ」
ボソッと美時が呟いた。
が、オーベルシュタインは聞き返すことが出来なかった。
ここでまた新たに乱入してくる奴がいるのである。
「美時!真雪!お前らどっかで姉ちゃん見なかったか!?」
「「みてなーーい」」
呑気にやってきた銀河帝国皇帝主席秘書官兼主席副官は、とたんに人々の台詞に串刺しにされる。
「カール!お前に聞きたいことがある!」
「それよりお兄ちゃん、パパは!」
「兄ちゃん、母さんいないんだけど・・・」
「だーーーーー!五月蝿い!いっぺんに喋るな!とりあえず、ハルト黙れ!」
折角復活したのに、皇帝陛下のお口はバッテンに逆戻り。
「んで、真雪と美時、兄ちゃんが居ないんだな?」
「うん」
「姉様も居ないんだな?」
「そう」
「つまり、二人とも姿が見えないわけだ」
「「・・・・・・・・・・・」」
「お前ら、コレをどう思う?」
「あ、俺お腹減ってたんだった」
「あ、お兄ちゃん、私にもよこしてよ」
すぐさま、近くのテーブルに意識を切り替える双子を見て、カールは満足そうに頷く。
「いい子に育ってくれて、兄ちゃんはとっても嬉しい。ところで二人とも、気付いてなかったのか」
「ふ?」
「ぐ?」
「俺にはさっきから歌声が聞こえてるんだが・・・」
上を指差す。
双子は上を向く。
その瞬間、皿が飛んできた。
このパターンはもうお分かりだろう。
「直!狙うならもっと正確に狙え!無関係の人々に当たるだろうが!」
「お前がよけるから悪い!シャリア!あ、と、なんだ。シャリア。この二人が真雪と美時だよ」
「へえ、本当にあの二人と同じ顔なんだな」
「直兄・・・と、シー兄!なんで!」
久しぶりに見る、生死不明だった兄の友人にカールも驚きの声をあげる。
と、この二人が居ることには、他の連中も居るのだ。
「なぁんでだろうねえ」
「細かいことは後で説明してあげるよ。カール」
「真雪、美時、どうせあの二人は上のバルコニーだよ。ここで宴会やるとき、何時もあそこでフケてるからね」
「上って?リサ小母様?」
「カールも気付いてたんだろう?大丈夫だよ、まずくなれば藤波が出張るさ」
「その前に、姉ちゃんに話があったから探してたんだけど、みつかりゃしねえ」
「残念ながらタイムオーバーのようだ。カール」
「だね」
両手で降参のポーズをする。
カールとリサの視線の先には・・・。
阿修羅の表情をした柏真沙輝が全身から殺気を吹き出していた。
 
そして、艶やかに月下の外の人間に向かって微笑む。
「ご質問は、その、美時と真雪の両親でしたわね」
殺気はそのままなので、必死に頷くしかない。
「では、その二人、今呼びますから」
 
「羽鳥!メガホン!」
切るような声で命ずる。
すかさず、スッと出てくるところが幼馴染だ。
真沙輝が親指で電源を入れる。
大きく息を吸い込んだ。


前へ 目次へ 次へ