〜純愛学園もの的・・・バカ話〜

 

その日、西日の差し込む生徒会長室で不幸なジャン・ロベール・ラップを凍りつかせたのは黒髪の生徒会長のこの切なげな一言だった。

「はあ、ぐれたくなって来たなあ」

(それ以上どうやって)と(頼むからそういう事を物憂げにいうな)という思いを複雑に絡ませた顔で二年総代は恐る恐る友人を伺う。

「や、ヤン?何か・・・な、悩みでも有るのか?」

自己犠牲精神がこの男の美徳の一つで有るわけではないが、とりあえず世界の平和のために自分が出来る事をやるつもりだった。

「んー、ラップは、ジェシカと上手くいってるのかい?」

半分寝ているような口調で昼行灯系の生徒会長は言った。

「まあ、そこそこには。・・・ヤン?」

はぁ・・・

ぼけぼけとした初夏の放課後には似つかわしくない大きなため息である。

今までこの男が何事かを真剣に悩んでいるところなどついぞ見た事のないラップは首をかしげる。

(いつもなんだかんだいって、のらりくらりとかわすのに・・・)

「ラップは、何で私に告白なんかしたんだい?」

「・・・・・っ」

振られてから一年。ようやく失恋の痛手からも立ち直って、よい友人になれたと思うようになった男に対する結構な直撃弾だった。

「私にはお前にそうさせる価値があったと考えていいって事かい?」

男の沈黙に自分が傷をえぐった事に気付き思わず謝る。

「あ、ごめん。どうも最近自己中に磨きがかかってきたみたいで」

「冗談のつもりだったんだが、本当に悩みでも有るのか?」

真剣に心配になってきたラップに、ばつが悪そうに窓の方を向く。

「別に・・・私にどうしろって言うんだ、恋愛感情なんて」

意外な台詞にラップは目をむく。今まで、ヤンが男女問わず振りまくってきたことは校内では有名な話だったからだ。

しかし、そういわれてみると今までの前フリもようやく飲み込めてくる。

「つまり・・・なんだ?お前さんはその意中の相手にどうやってモーションかけようかと悩んでいたわけか?」

どこか呆れるような口調になったのは否めない。しかし本人にとっては深刻な事なのである。

「モーショ・・・っていうか、いや、違わないんだけど・・・」

何時にないヤンの態度に可愛い通り越して哀れとすら感じる。しかし恋とはこんなものなのかもしれない。

そう思うとうかつに笑えないラップである。

「別に、正攻法でいいんじゃないのか?」

「そう簡単にいくような相手じゃないんだよ。やっかいなことに」

頬を紅潮させていたが、ふと自分の言葉に何か気付いたように生徒会長の、いや、一人の戦略家の顔になる。

「いや、何も付き合ってくれというだけが正攻法じゃないか・・・そこに行くまでの段階って物も・・・」

自分の利害が絡むことだけにとことんシビアモードに入ったヤンに、さすがにすこしムッとしながら見ていたラップは、ふと気付いてしまった。

(そういえば、最近、ヤンの態度が不可解な相手がいたな。一人だけ。こういうことか?あの、いかにも有能そうな。顔も頭もいい。しかし酷薄そうな。あの?本気か?本気なんだろうなあ。あんな年下の相手に負けるとは、かなり悔しいが、まあ仕方だないとは思える。そう。一年総代の)

「・・・オスカー・フォン・ロイエンタール?」

ギクッ。

「ヤン、お前って・・・面食いだったんだな・・・」

 

 

(おや?あれは・・・)

「ヤン?どうかしたのか?」

窓から外を見下ろしているヤンにクラスメートが訊く。

「ん、次サボる」

(気分的に詰め将棋とかしてるような感じだな)

 

「なにしてるんだい?一年総代」

ちなみに、イン・裏山。

「何って・・・サボっているんですが。生徒会長」

新緑の元、くつろぎモードに入っていたロイエンタールが見上げる。

「普通学園モノっていったらサボりって屋上じゃない?って、ああ、そういえばウチ屋上無かったっけ」

こんなささやかな会話(会話!?)で幸せになれる私って健気だよなぁ(自分でいうな!っていうかどこがだ!!)

木々の間から見える深い緑の屋根の校舎を何とはなしに振り返る。

「そお言う生徒会長は四限目どうなさったんです?」

ヘテロクロミアが感情を覆い隠した様子できわめて事務的に聞いてくる。

「それこそサボりに決まってるじゃないか。君が裏山の方に行くのが見えたから、たまには生徒会役員と親睦を深めるのもいいかもしれないと思ってね」

(っていうか、お前と、だけどね)

そう、ヤンは恋愛の基本以前に友好関係を築くための基本。こまめに会って話し、親密度を上げていくという作戦にでたのである。(っていうか既に作戦ですらない)

「気のせいかもしれないけど、避けてるだろう私を」

「別に・・・気に障ったなら改めます」

あくまで淡々という男にチラっとムッとしたヤンは、相手と自分との間にある暗くて深い河・・・もとい、障壁を崩すためとりあえずひびを入れる事を試みる。

「別に昔みたく日がな一日遊んでるぐらい仲良くってワケじゃないけど・・・さぁ、ねえ。本当に忘れたってワケじゃないんだろう。オスカー」

途中から語調が切り替わる。少し唐突に切り過ぎたかも知れない。

ようやっとロイエンタールの顔に表情が出てくる。この男にしてはきわめて珍しい「安堵」の表情。

しかし、本人を正視できないヤンにその顔は見えない。

「確かに母さんが死んでからは疎遠になってたけど、昔は良く遊んだっていうのに。これでも私たちは」

その台詞をヤンは最後まで言うことは出来なかった。ロイエンタールがその手をとって自分の額に押し付ける。

「覚えていてくれて有り難う。また会えて心から嬉しい」

(よく考えたら11年振りだ・・・母さんが死んでもうそんなにたったんだ)

200カラットのスタールビーよりも珍しい素直なロイエンタールを見ながら、ヤンはぼんやりとそんな事を考えた。

 

もしかしたらヤンの目標である恋人の座からは遠ざかったのかもしれない。それでも、あの幼い日の思い出が自分だけのものでない事を確認できてヤン・ウェンリーはかなりの上機嫌で教室へ戻っていった。

 

「あいつはニブイ」

一方不機嫌なのがロイエンタールである。木にもたれながら眉間にしわを寄せていた。

(俺が何時からあいつを狙ってると思ってるんだ。物心ついたときからだぞまったく。いい加減に気づけ)

 

この二人、思うところはまったくといっていいほど同じなのであるが・・・・どうだろう、その思いがかなう日は一体いつの事やら。

それでも、確実に日々はハッピーエンドへと向かっている・・・といいのだが・・・。

 

                                続く・・・かもしんない

 

 

切ない片思い系の話にするつもりが・・・バカ話?・・・バカ話。

かなり無茶やってる話です。いや、私が。

こんなんで良いんでしょうか?いや良くないよなぁ・・・。

ま、いいや。苦情も受け付けます。

ちなみに、前回とヤンさんの性格が違うように見えるのはただ単に私の気分の変化です。まあ、これぐらいの変化は人間の人格にはよくあることです。多分・・・。まあ、ヤンさんには前回のような一面もあるんだよということで・・・・。

それにしてもどうやってくっつければ良いんだろう。

もう既に私の中ではラブラブモードに突入してるからそっちの方が書きたいなぁ。

ここから約一年後ぐらいの話なんだけど。その一年間こいつらは何してたの?みたいな感じで。

あーああ、無謀だよなー。過程なんて大っ嫌いだ!めんどくさ過ぎー。

もおいいや、寝よう。

まあ、少しでも楽しんだいただければとっても嬉しい。


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