モンスター・パラダイス!  〜ポプランとコーネフ

 

 オリビエ・ポプランが、「恐怖」という言葉を本当の意味で知ったのは・・・、隣にいるのが当たり前だと、いつの間にか当たり前だと安心していた相棒の、ヤン・ウェンリーに初めてあった時の顔を見たからだった。

 あの時のわけもいわれぬ絶望を、ポプランは生涯忘れることはない。

 硬直し、ポプランが隣にいることさえ忘れて目を奪われていた。蒼白になってそれでもポプランを魅了して已まないイワン・コーネフを。

 

 普段ポプランに酷いことしか云わないコーネフは、ポプランに言わせれば、びっくりするくらいにポプランに甘い。無意識に人肌を求めるポプランの、ほぼすべてを、当たり前に受け止めている。

 

 本当にコーネフはスキンシップを嫌がらない。

 いまも、我ながらあざといと思うほど、クッションにもたれてくつろぐコーネフの足の間に座ってみた。背もたれにしたコーネフは平然とクロスワードを続けている。おい、おかしいだろ。突っ込めよ。これ絶対彼女ポジじゃねえか。

 スルーするコーネフが悔しくて、胸にすりすりと顔をこすり付ける。と、頭をわしゃわしゃされた。あれ?おかしくね? 俺大型ペットポジ?

 つか、こっち見ろよ。

 コーネフの撫でてくれる指が好き。手が好き。こっち見てくれない顔も好きだし、コーネフの体温が一番好き。

 つまり俺はコーネフが好き。

 自覚する前に、なにかの拍子で恋人になりたい、と云った時は、難しい顔で拒否された。自覚前だったけど、あまりに真面目に対応された挙句振られたので、かなりへこんだ。

 そう、普段コーネフは散々なことしか言わないのに、意外とポプランのことを真面目に大事にしてくれているのだ。

(そうか、俺ってコーネフに大切にされてたんだ)

 嬉しい。愛しい。大好き。俺も大切にしたい。愛したい。

 自覚したときのポプランは大変だった。胸がポワポワとピンク色したもので埋め尽くされた。

 普段「脳内お花畑」と冷ややかな目を向けるコーネフだって想像もしないくらいの桃色具合だった。

 抱きたい、抱かれたい、・・・・・・たい。

(えっ?)

 なんか最後、身に覚えの無い感情がよぎった。けれどそれは、自分の奥深くに、もっとずっとずっと奥深くに、遙か昔からあった。

(・・・遙か昔ってなんのこと?)

 

「コーネフは、ヤン提督が好きなの?」

 わざとらしく甘えた口調で云ってくるポプランを、コーネフはまじまじと見つめる。アホなのこいつ? が、コーネフはたまには真面目に、本当のことをしゃべる気になった。

 だって、ポプランの幻のネコミミがへにゃーーんとしょげていたから。

「俺は、ヤン提督が、怖い」

 一度ガラス玉のような緑の瞳を見て、苦笑する。そしてまだへにゃんとしてる幻視のネコミミをわしゃわしゃと撫でてやれば、気持ちよさそうに目を細めた。

「こわい、けど、目が放せなくて、心配で・・・」

「抱きたい?」

「ああ。抱きたい」

 そういいながら、きゅっときつく抱きしめるのはポプランの身体だ。

「俺はあの人を抱きたい。堪能して、酔いしれたい。むさぼりたい。溺れたい。破滅したい」

 甘い声音に、ポプランの胸が嫉妬よりも哀しみで満たされる。なぜか、コーネフの甘い声音は泣きそうなほど切なかった。

「けど」

「けど?」

「俺は、あの人が欲しいわけじゃないんだ」

 なんだか矛盾しているようなことをいう、コーネフが、このときはなぜだか、素直に頭に沁みた。だって、

「俺は、お前が、欲しいよ? コーネフ」

「知ってる」

「俺は、お前が抱きたい。お前の肌が一番好き。裸に剥いて、全身舐めまわしたい」

「それも知っている」

「俺は、お前が、すき」

「ああ。知ってるんだ。ごめんな、ポプラン。俺は、お前が嫌いなお前が好きなんだよ」

 知ってるといい続けたコーネフが、ふいに別の的を射たので、ポプランはギクリと強張る。

 ポプランが好きなのは人肌。人の体温。ぬくもり。

 だから、それをくれる女の子たちはだーーいすき。

 一番好きなぬくもりはコーネフだけど、気前よく惜しみなく、そのぬくもりを与えてくれる女性達は、本当に好き。女の子一人一人、そのぬくもりを味わう時は、全力で愛をそそぐ。

 ポプランが嫌いなのは、自分。ポプランが作り上げたチャラチャラして、陽気で不敵なポプランという壁の向こう側にいる自分。

 冷たくて、凶暴で、冷酷で、傲慢で、たぶん、きっとそんな感じの、黒くてどろどろしたナニカ。触れたら、きっと今の全てを失ってしまうから、ポプランはその扉を開けない。

 ポプランはそのナニカを受け入れない。

「コーネフは、「アレ」が好きなの?」

「「アレ」も好きなんだ。全部混ぜたらお前になるだろう?」

「え? やだよ。おれ・・・お前なんで・・・俺でも知らないのに」

 そう。ポプランはソレを拒絶したから、ソレが何であるかを知らない。

「舐めるくらいならいいよ。それくらいいくらでもいい。お前なら」

 だけど、だから。

「ごめんな、今のお前には噛まれたくない」

「なんで、しってるの・・・」

 そう。あの日ポプランが理解できなかった自分の感情。

 抱きたい、抱かれたい、「齧りたい」。

「噛むのはお前の愛情表現だろう?」

 全身舐めまわしたいのは、味わいたいから。噛んで、牙で、その肉を感じたいから。

「まぁ、ちょっと肉を齧らせるくらいなら、いいといえばいいんだが、今は多分、支障があるからなぁ」

 うん、欲望のままに行動したら、スパルタニアンを操縦できなくなる。

 両手両足どころじゃなく、全身全ていらないものはないのだから。

「内臓とか食べさせてやれなくて、ごめんな?」

 血の滴る肉を食みたい。できればその苦いはらわたを。

 なぜ、それを、お前が知ってるの?

 ポプランが意識しなかったその奥を。

「お前には、それが出来ないだろう?」

 そう、なら、できるのは「アレ」なの?

 愕然とするポプランの顎をとって、こめかみにキスを落とす。気持ちいい。唇が気持ちいい。

「ねえ、コーネフ。お前、俺のことなんだと思ってるの?」

 それは聞きたい。扉の向こうの「アレ」も含めて。

「んーとな」

 コーネフの苦笑。ポプランに向けられるコーネフの笑顔はレアすぎて泣きそうになる。

 続けられた言葉は、ずいぶんふざけていた。

 

「でっかい、にゃんこ」

 ムッとしたはずだったのに、なぜだか、自分は。扉の向こうのアレも。

 なぜだか、そう、ほっとしていた。

 

                                     終わり

 

 

毎度、コーポプに見えるポプコーです。

猫科攻め推奨月間です。つまり、今日で終わります。

ハッピーハロウィン!

スパダリ受けってテラ萌える。

余力があったら、コーネフとヤンに続きます。


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