Chaotic Party2
 
今日は「道」について少し説明しようか?
「道」っつーのは、速い話が古代文明の遺産で転移装置だな。
王都フェザーンの城の地下には四つの魔法陣があって東西南北の太守の城まで一瞬にして移動できるわけだ。
ついでに各太守の城にも同様のものがあって、お互いに行き来も出来る。
また、これとは別に術者は己の魔力で自由に「跳ぶ」こともできる。術者が第三事象にしたがって跳ぶのに対し、この道は第四事象に関わって移動するわけだからこの場合移動する当人が魔力を有している必要は無い。
あん?わからねーって?まぁ、そりゃそうだわな・・・。まぁ、根本的な理屈は同じだ。気にすんな。
んじゃ、お話の続きをどうぞ。
 
朝早くから侍従長に起された大国フェザーンの宰相は走っていた。
王子と王女がそれぞれの部屋にいないというのだ。シーツがほとんど乱れていなかったため、元々部屋に戻っていたかさえ怪しい。
「そうだ、ガラニ―ザ殿のお部屋は見たか?」
「ガラニ―ザ様がお二人をさらわれたと?考えられそうにありませんが」
「万が一という事もある」
宰相も侍従長も王宮に勤めて長い。人物評ぐらいはできる。あの少年はそういったことのできる体質ではない。
二人が足早に向かった先で見たものは・・・
気持ちよさそうに眠る王子と王女とガラだった。
「これはこれは、幾ら余裕を持って作ってあるといっても一つのベットに三人は狭いでしょうに・・・」
「なんとも心温まる光景でございますな。暗黒の時代の不和が次世代に残らず本当にようございました」
「それにしても、姫様にはもう少し年頃の娘としての自覚を持っていただきませんと・・・」
何時の間にか合流した女官長が渋い顔で首を振が、慣れた手つきでただの悪ガキと化した三人を起しにかかる。
「起きてくださいまし。ほら、美時様、真雪様、ガラ様。朝ですよ」
「ふえ?まだ暗いよ?今何時?」
「朝の九時でございます。充分寝坊ですな、姫様」
しぶしぶ起き上がった真雪の横でまだ半分寝ている美時が首をかしげる。
「あれ?この世界に時計ってあったっけ?」
「城に特大のやつがございますでしょう。寝ぼけてないでちゃっちゃと起きてください。美時様」
この三人の中で意外なことに一番寝起きがいいのがガラだった。
「九時にしちゃあ暗くないか?雪でもふってんのか?」
それでも、まだ眠そうに拡大縮小可能な翼をパタパタさる少年の台詞に、年寄り三人が渋面を作る。
「美時様、真雪様、ガラ様。緊急会議でございますぞ」
 
「ちょ、ちょっと待て美時。何で俺も列席なんだよ!」
ずるずるずるずる
「お前関係者だろうが」
ずるずるずるずる
「って城の会議にグラウダウザーの孫が出ていいとでも思ってんのかよ。つーか、ひっぱんじゃねぇ!」
ピタ
「重要参考人が出るのは当然」
「なおわりぃじゃねーか!」
「ガラ―、諦めた方がいいよー?お兄ちゃん一度決めたら融通利かない利かない」
BGM、ドナドナでも可)
 
宰相に先導されて三人が大会議室に入ると、机にそってコの字型に並べられた椅子は真ん中の三つと、その向かって右側にある宰相自身の椅子を除いて全てが埋まっていた。
真ん中の席に美時が向かって右に真雪左にガラニーザが座るを、その間も惜しい美時が口を開いた。
「で?この暗さの原因は?今チラッと見たけど・・・・雲?」
家臣団を代表して精悍な王都守備隊隊長が首を振って答える。(王都守備隊。軍で言うと禁軍のようなものです。守備隊隊長は大将軍クラスです)
「いえ、雲の上にあるダーク・キャッスルがこの城を覆っているのです」
何時の間にか髪を纏めた真雪が誰に聞くとも無く発言する。
「各国大使の方々と国民への対応は?」
「ぬかりなく」
宰相の隣に座っていた小男の外省長官が恭しく答える。(外政省。外務省と同じようなものです)
渋い顔をしている重臣たちの様子と内容の馬鹿馬鹿しさに脱力した美時が確認を入れる。
「・・・・・じゃあこれは災害対策委員会でいいんだな?」
「目下議題は『如何にしてあのお二方を満足させ、速やかに公務にお戻りいただくか』です」
宰相が威厳をもって重々しく宣言した。
 
「つまり父上と母上にお戻りいただければ、問題は無いんだな?」
実はガラはともかく美時と真雪だって会議に出席するのはこれが初めてなのだ。
それがよりにもよって災害(人害)対策委員会だとは、ありがたくって涙も出ない。
一同が大きく頷くのを横目に真雪が身を乗り出して、嫌そうな大きな瞳でガラを見る。
「念・の・た・め。念のため聞いとくけど、あのオーヴに人の心を操るような事は出来ないのね?ガラ」
重要参考人も、同じく嫌そうに肯定する。
「それは無い、断言してもいい。あれは正でも負でもなくただ「力」を込めただけのオーヴだ」
わかりきっていたことだが全員の口から重い・・・重いため息が洩れる。
肩を落とした一同だが、空間が歪む気配を感じてはっと顔を上げる。
中空に小さな水晶玉が浮かんでいた。たちまち不思議な光を放ち、一つの人影を浮かび上がらせる。
三十を過ぎて益々容色がましてきた、美しいフェザーン国王妃である。
『美時、真雪、聞こえますか?』
ちょくちょく忘れる事だがこの王妃、黙っていれば折れそうなほど儚げな風情なのだ。
「ママ!」
人前だとわかってはいたが、真雪はつい呼びなれた方の呼称で反応する。
『残された貴方たちが心配ですが、時間がありません』
「母さん、父さんの部屋で「正しいRPGのススメ」とか言う本を見つけたんだけど・・・」
『この城は現在強力なシールドで守られています。お父さ・・・いいえ、魔王を打ち破るにはこの封印を破るしかありません』
「じぃちゃんの形見返せ・・・」
『封印を破る四つのオーヴは東西南北の太守たちが持っています』
「宝物庫の中から「使えそうな」品を片っ端からちょろまかしていったのは貴方か?」
宝物庫の品々をまるで我が子の様に大切に思っている管財省の長官が涙目になりながら透けている王妃を睨む。(管財省。国宝の管理のみならず、国内の文化遺産や自然遺産などの保護もやっています。国税局も此処に入ります)
『各太守も王の魔力に操られているのですから、辛い旅になるのはわかっています。それでも・・・どうか、どうかお父さんを助けてあげて。お願いです』
「王妃、各太守殿の城へと通ずる『道』を閉ざしたのも貴方か?」
旅・・・と言う単語に偉丈夫の理法省長官が神経質そうに片眉をあげる。(理法省。魔法によるトラブルや古代の術具、術法の研究を行っている所です。道の管理はこの部局の担当です)
『いや、それは太守たちがやってるんだと思う。北への『道』は繋がってるんだろう?』
「左様か・・・・・・・・・っ!王妃!?」
そこまで疲れたように王妃の「猿芝居」を聞いていた重臣たちが身を乗り出す。部屋中の視線が希代の魔術師に集まる。
『(ぎく、しまった)酷い事を云っているのはわかっています。それでも、一刻も早く・・・美時、真雪?それにガラ・・・・・世界が王の手に落ちる前に・・・・早く・・・どうか・・・私にも・・・・・・・・オーヴの・・・・・魔・・力・・・が・・・・・・・・・』
痛みを堪えるような王妃の映像がブレ、その姿は水晶玉が発していた光と共に掻き消えた。
 
「失敗失敗」
水鏡の前に座っていた王妃が肩をすくめ、舌を出す。
「せっかく、オスカーが台本作ってくれたのに・・・・」
手元にあった台本をぱらぱらと見ていると、別の部屋から国王の呼ぶ声が聞こえた。
「おい、ウェンリー!鍋噴いてるぞ」
食堂方向に向かって王妃も負けずに怒鳴り返す。
「えーー!火ぐらい消してくれたっていいじゃないかーー!」
「だったら、鍋の火ぐらい魔法で熾すな」
「あ、そうか、しょうがない・・・・・」
立ち上がりながら心配そうに水鏡を一瞥する。どうやら一同本気で切れているようだ。
布の多い服を掻き分けるように台所へと小走りに駆けて行った。
ぱたぱたぱたぱた・・・
 
「おーーふーーくーーろーー」
美時の体が背もたれにつけられたままズルズルと滑る。
ブンブンブン・・・ガン・・・ぴしぴしぴし・・・パリン(←真雪が無言で壁に水晶玉投げつけて粉々に砕けた音)
列席者の全員が口々に眉間に皺を寄せぶつぶつ文句をいう。しかし、どこか子供のいたずらを楽しむ風情がある。
やはり此処の家臣団は大物だ。
シュイン
「はいはいはい、そこまでそこまで。皆さん方」
突如として部屋の真ん中に男が現れる。宙に浮いたまま背を丸めて楽しげにくすくすと笑う。
いっせいに身構える人々に対しそのままの体勢で人々を制する。
「身構えんでもいいよ。俺は敵じゃない」
不思議な印象の男だった。長い髪を編んで横にたらした男は旅の学者風かつ遊び人風というとても捕らえどころの無いいでたちだった。しかし、今「跳んで」来たところを見ると間違いなく術者だろう。
しかし、人々が身構えたのはそこではなかった。ダーク・キャッスル程ではないがこの城にだとて封印は幾重にもかけてあるのだ。ただでさえ近年減ってきている術者である上にこの城の守りを破ってくるほどの実力を兼ね備えたものなど、少なくともここ半世紀の記録には無い。
「あんた、何だ?」
警戒心ビシバシの態度でガラが問う。この城の囲みを破ることは、全盛期のグラウダウザーだとて厳しい。
「おーっと、気にすんなよ。ナレーションのお兄さんだ」
いや、不思議の国のアリスのチェシャ猫にいっそ近いだろう。
「ちょっと見てたんだがな。このRPGには村の長老とか、占い師のおばばだとか言う役をこなす人間が居ないようだったから口出ししに来たんだよ。三人とも、早く北へ行きなさい。「血まみれの手」が困っている」
軽い感じなのに侮れない底の深さを持った男に美時が幾分か口調を改めて問う。
「貴方は何者です?」
その言葉に、今までとは少し風情の違った笑みを見せると大会議室の扉を背に初めて足をついて背をまっすぐに伸ばし、これまでの軽さを払底させるような威厳を湛えて宣言した。
「私は、「揺ぎ無き者」の称号を得た者だ」
その美しく響く声と甘い瞳に一同背筋に痺れを感じる。
「揺ぎ無き者」それは日常普段の会話では、頑固者や冷血漢といった意味で使われる単語だが、今男が言った言葉は違う。この言葉の原義。世の全ての法則、事象を飲み込み取り込んだ結果揺るがなくなった者。
大賢者の尊称だ。
ぷっ
「お前らもしかして、今の信じた?」
ふき出した男に夢から覚めたように呆然とする。
「おれはマジでただのナレーションだってば。まぁ、これからもちょくちょく出てくると思うから仲良くしろや真雪、美時、ガラ。じゃーな、今日はこの辺で!」
シュイン
「な・・・なんだったんだ今のは・・・」
文化省の長官の台詞が全員の心情を過不足無く表していた。
シュイン
「あ、一つ云い忘れた。俺の居ない所で俺の話題は絶対に止めろ。いいか?絶対だぞ。さもなくば、俺がお前らの王妃を殺すかお前らの王妃が俺を殺すという事態になりかねんからな」
逆さまに上半身だけ天上から出したような男が獰猛な笑みを見せ念押ししてから、今度は本当に消えた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・これは・・・何処までが誰の計算なんだ・・・・・」
内政省の長官の言葉と共に、不吉な音を立て旅立ちの門が開く。
 
さーて、俺様もようやっと出番がでてきた所で次回予告!
こうして子供たちは旅立つ事となった。雪の降り積もる地で三人が見たものは?謎に包まれた術者の正体はいかに?
次回ChaoticParty3「血まみれの手」
つーわけで!ゴオオオオオオオゥノーーーーゥスッッ(叫んでください)


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