Chaotic  Party  1
 
昔々あるところに・・・・・まぁいろいろあって、とにかく魔王がいたわけだ。彼の名はグラウダウザー。
魔王は強力な魔力で長く世界を支配してきた。ところが、だ。そこは魔王のお約束。魔王を倒すべく立ち上がった6人のガキに倒されちまった。
暗黒の時代の夜明けを見た大国フェザーンの国民はリーダー格だった少年を熱狂的に空の王座に据えたわけだ。よくやるよねー、魔王を倒したとはいえ14か5のガキだぜガキ!ったく正気じゃねーよ。あ、だから「熱狂的」なのか。歴史書の記述ってのは云いえて妙だね。おっと、話を本筋に戻そうか。幸いなるかな、そのガキには一国を統治する力なんざ充分にあったんだ。そいつは生意気にもいとこで魔王グラウダウザーの魔力をほとんど根こそぎ封じた魔術師であるヤン・ウェンリーを王妃に据えて、他の四人に東西南北の領地を与えた。
三年後、可愛い双子の美時王子と真雪王女も生まれて(←どうやって!)今日は城でその二人の15歳の誕生パーティーである。
国王の名前?一々突っ込むかねぇ、ンなこたぁ。オスカー・フォン・ロイエンタールのクソ餓鬼に決まってるじゃねぇか。
 
「王、美時殿下も真雪殿下もすっかり大きくなられましたな」
さらりとした声が耳に心地よい清廉というより他無い容姿の男が英雄王と呼ばれるたびに一々眉を顰める意外に律儀な国王に話し掛ける。西の太守、直樹・ラングレーだ。
「ああ、この15年色々あったが意外に早く過ぎたような気がする。退屈だと思ったことは無かったが最近飽きて来たな」
「オスカー、又、ンな無責任な・・・」
 
一方、王妃ヤン・ウェンリーと熱心に語らっていたのは南の太守、九条羽鳥である。
「それでは羽鳥は「事象の杖」が動いてると?」
「うん・・・。なんだか、最近よく実験が失敗するんだよね。この国全体の時空が少しずれているような気がするんだ。あくまでも、可能性の一つとして・・・と云う事で事象の杖なんだけど」
「でも、伝説上のマッジクツールだろう?実在するかもわからない」
「あはは、まったくなんだけどね」
小柄で痩身の男が元々笑い目なレンズの奥の瞳を益々細める。この赤茶けた細く長い髪の持ち主は常にこの笑顔のポーカーフェイスを崩さない。
「王妃」
そこに耳元で囁かれたらさぞかし幸せになれるだろうと思われる、痺れるような低音が掛けられた。
「悪いが、もう北へ帰る」
5つになる息子を抱えた浅黒い肌の北の太守、シャリア・ラントスである。
「え?一泊ぐらいしていけばいいのに・・・」
王妃の緩やかな衣装と黒髪が揺れる。
「近頃領地で妙な事件が頻発しているんだ。人的被害は無いが・・・気になってな」
「忙しい所呼び出して悪かったね」
「いや、久しぶりだったしな。楽しかった」
 
そして東の太守、ディヴァイン・ウォーロックが話していた相手はというと・・・。
「ああ、東の弓月の国はまだ王位争いでごたごたやってるみたいだしぃ、南のガシャは分裂したままもう戻りそうにねぇわな。北の民は相変わらずgoing my wayだし、西のサルジーナは去年の水害がまだ尾を引いてる」
東にはどでかい港があるので新鮮な話題は彼に聞くに限る。
「ふーん、やっぱりアクラス(ガシャのさらに南にある国)の民芸品買い叩くなら今ね」
王と王妃の従兄妹の柏真沙輝である。世俗とは関わらず静かに日々暮らしている・・・と言うのは万民の予想通り真っ赤な嘘で、知る人ぞ知るフェザーン暗黒街の黒幕である。
彼女は王室とは関係が無いため遠慮なく自分の利益に走っているのである。ほとんど知られていない話だが彼女の存在なくしてグラウダウザーの撃破は無かった事だろう。
 
「と、それはどうでもいいんだけど・・・」
本日の主役の片割れ、真雪王女が横の美時王子に渋い顔で問う。
「今日って私らの誕生日パーティーだったよね・・・」
「たーしか、そうだったよな」
二人は同時に諦めたような呆れたようなため息をつくと黙々と会場の飲食物を消化する事に努めた。
(二人ともいつも忙しいんだから、こんな時くらい構ってくれてもいいのに・・・)
 
場内の明かりに火が灯り、昼間はしゃぎまわっていた子供たちがそろそろ船を漕ぎ出そうかとする頃、「それ」が来た。
ゴォォォォォォォォ
突風と共に黒い塊が呑気に呑み比べをやっていた国王夫妻の目の前に現れる。
「お前たちが王と王妃だな?」
「それがどうかしたのか?」
王がヘテロクロミアで14、5歳ぐらいの黒い羽の生えた少年を見る。しかし、酒の手は止まらない。
横では王妃がしきりに夫(!)の服の裾を引っ張って少年のコウモリのような羽を指差し、「カワイー!あれカワイー!」などといっている。
あまり、闖入者に対する態度ではない。(すいません、酒入ってるんで許してやってください)
「それがどうかしたのか?」
広間は先程の突風でめちゃめちゃなのだが、返事の無い少年に平然と重ねて問う。
一つには横の王妃が魔術で風を相殺させたからでもあるのだが。
「聞いて驚け!俺はお前らに倒されたグラウダウザーの孫だ!」
「「ふーん」」
(↑いかにもどうでもよさそうなステレオ)
「特に王妃!お前に魔力を封じられたせいで、じぃちゃんは・・・じぃちゃんはなぁ」
少年の顔に苦渋が走る。
「すっかりボケちまったんだーーーー!」
「それは俺らのせいじゃないだろう」
「私がグラウダウザーのじぃさんの魔力を封じたのは君が生まれる前だったはずなんだけど・・・?」
「うるさいっ!5年前まではいいじいちゃんだったんっだ。ぜーったいお前らのショックでボケたんだぁ!」
「じぃさん、結構なトシだったからなぁ・・・」
「ただの八つ当たり以外の何者でもないと思うが・・・で?どうしようというのだ」
「じぃちゃんの仇だ!(←違う)いいか、お前らと戦ったときのじぃちゃんが全力だったと思うなよ!じぃちゃんは自分の魔力を密かに封印していたんだ。それがこの闇のオーブだ!」
((だったらはじめっから封印しなけりゃいいのに・・・))
「俺はこれからあの「ダーク・キャッスル」から(もうちょっとマシな名前は思いつかんのか)世界を大混乱に貶めてやるぜ!」
何時の間にか、外に馬鹿でかい城が浮かんでいる。大きさは・・・この城と同じくらいだろうか?
「「・・・・・・・」」
顔を見合わせる王と王妃。一瞬お互いの瞳の奥で何か企んでいる光が煌く。
「う、オーブの魔力が・・・」
わざとらしく頭を押さえると、国王が一動作で少年の手からオーブを奪う。
「餓鬼の分際で魔王の役など100年速い。魔王役ぐらい俺がやってやる。万民よ!我元にひれ伏すのだ!」
国王陛下ノリノリ・・・
「わー、オスカーかっこいーー」
すいません。この夫婦まだ酔っ払いです。
「王妃は人質に貰っていくぞ」
「きゃはははは、人質だってぇ。カックイ―――!」
その姿が一瞬にして掻き消える。
「陛下!」
「王妃!?」
「父上!?」
「お母様!」
この時、全員の心は一つであった。「何やってんだ?あの夫婦」
オーブに洗脳された振りをした国王もだが、「跳んだ」のは明らかに王妃の能力である。
「あっ、俺もオーブの魔力が」
「あーー、そんじゃ僕も」
「ここは一つ、洗脳されておこうか・・・」
残っていた東、南、西の各太守が言い出す。どうやら、王と王妃の悪ふざけに付き合うことにしたらしい。
「此処で乗らない事には幼馴染としての面目が立たないわよね・・・」
これでフェザーン暗黒街も敵に回したことになる。
 
「・・・・・・・・・」
残されたのは大臣その他城の人々と王子と王女。それに黒い翼のついた赤い瞳の少年だけである。
皆「呆れて」声も出ない。一番先に立ち直ったのは15になったばかりの双子だった。
「とりあえず・・・・寝て起きてから考ええるか」
「えっと、泊まっていくんでしょう?ご免ね、父様が貴方の大切なもの盗っちゃって。名前きいていい?」
真雪が翼と同じ色の髪をかきあげ呆然とへたり込んでいた少年にまっすぐに手を伸ばす。
「・・・・・ガラニ―ザ、ガラでいい」
国王と王妃にあっけに取られていたガラは、すでに復讐などはるか彼方でおずおずと差し出された手を取っていた。
 
さーて、これが少年たちの旅の第一歩であったとは誰が知っていたであろうか!
彼らの行く先には何が待ち受けているのか!国王夫妻の思惑やいかに?
次回Chaotic Party2「旅立ち」乞うご期待!
 
「ん?」
水鏡を覗いていた王妃が眉を顰める。
「どうした?」
近頃、仕事に飽きたと公言していてまんまとサボった国王が聞く。
「いや、今変なノイズが・・・あったような気がした」
「それより、子供たちはどうした?」
此処は少年が云っていたダーク・キャッスルの一室。元よりこの夫婦シラフである。
「ガラの翼触らしてもらってる、いいなー。子供は打ち解けるのが速いんだからもう・・・ガラを巻き込んじゃって気にしてたんだけど、心配するほどでも無いみたいだね。私たちも寝ようか?」
と、立ち上がりかけた王妃の手を国王が取って口付ける。
「ああ、俺たちも・・・な」
もしかして、こいつがサボったのって理由これだったりするのか?と本気で考えている所が王妃の恐ろしいところである。
「お前・・・・いい年して何やってるんだよ」
「俺はまだ32だ」
とりあえず、夫婦仲は円満である。

続く

 

 
阿難がせっかくサイト作ってくれたんだから、なにか見るものが無きゃつまらないという事で。
書いてみました、ファンタジ―!・・・か?
主人公が美時と真雪でーっす!国王夫妻、悪役です。悪役楽しいです。
なーんか、ロイエンタールが愉快な性格になってます。
眠らない街には直接は関係ないお話なので、まぁ、とりあえず笑ってください。


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