突然に爪の先から這い上がってきた衝動は何だろう。
発作的に叫びたくなった喉を必死に抑える。

むしろ殺したいとさえ思った。

肉を裂き、骨を砕き、滴る熱い血を浴びれば。
それを夢想した時、おそろしいほど心は静謐を取り戻した。

あぁ、愛しているのだ、と。
唐突に気づかされた。

いっそ殺し殺されたかった。
それは至福の陶酔だろう。

どうしてかひどく噎び泣いてしまいたい浮き足だった心地がした。



           情動



「―――なんてことを思った事はないかい?みんな」
清楚に微笑んで、ヤン・ウェンリーは周囲を見渡した。
会議の合間の息抜きに、くだらない四方山話に興じていた幹部連。
今回のお題は恋愛話だった。
シェーンコップやポプランを筆頭に、恋の話は誰でもあるだろうと軽く話していた。
そして、配られたお茶を飲んでいる最中、唐突に投げられた信じがたい人物からの話題。
周囲は声も出ない。
「か、か、か、閣下………!」
ムライが声を上げるが、意味ある文章は続くはずも無い。
「あれ?みんな恋のひとつやふたつあるんじゃないかい?」
「先輩…それを恋と一言で言い切るのはどうかと…」
「え?恋だろう?まぎれもない。ってちょっとテレるね」
微苦笑して紅茶をすする。
僅かに染まった頬が可愛らしいのだが、今はとても素直に可愛いと嘆じれない。
「閣下がそんなにも情熱的な恋をされたとは知りませんでしたな」
「おや、それは君の観察眼がまだまだと云う事だね。精進しなくちゃね」
ざっくり。一刀両断に切り捨てた。

「で、ねぇ?ほんとにみんな、ないの?」
「………たぶん艦隊の九割九分九厘以上、いないでしょうね。そんな経験した人は」
それって0.1%未満です。
コーネフが至極冷静な声で答えた。
「え?だって色事師で鳴らしてるシェーンコップやポプランがここにはいるよ?」
「少なくとも。こいつはそんな重いモノを持つ力はありませんよ。軽いもんです」
散々な言い草だが、言い返す言葉も無い、横のポプランである。
「このオッサンにもないでしょう。それに、そんな想いを持った人間はナンパ男にはなりませんって」
「オッサンと面と向かって言うとはイイ度胸だな、アッテンボロー少将」
「否定はそこだけですか?」
意地の悪い、さすがヤンの後輩である。
「そういうものかな。あ、じゃあグリーンヒル少佐は?情感溢るるのは女性の方が…」
「いえ…女性にしろ男性にしろ、あまりそういった熱情は持たない方が多いのでは…」
「そうかなぁ。あ、じゃあ青春の只中だろうユリアンは?」
「ありません!そんな恐ろしい激情は持ち得ません!」
理想の提督像にヒビが入って、半ば涙声である。
「う〜ん、熱情とか激情とか、そんな大層なモンだとは思わないんだけどなぁ〜」
かわいらしい恋じゃないか、とぼやく声に
(どこがっ?!)
全員無言で突っ込んだ。

「あぁでもそう云えば…」
「なんです?」
どこか疲れた声で律儀に聞く。
「その恋の相手にね、言われた事があったよ」
「へぇ、なんて?」
「『お前のは悪女の深情けよりも質が悪い』って。失礼だよねぇ」
いえいえ、真っ当な感想だと思います。とは、理性的にも誰も言わなかった。
「でも、そんな恋をされたのなら、もぅ恋は十分でしょう」
道理で華やかな噂が無い、と納得する士官学校からの後輩に
「は?なんで?」
「なんでって…」
「大体ね、勝手に過去形にしないでくれるかい?」
「はっ?!」

精気に満ちた、とても美しい笑みで
「まだ私の恋は、現在進行形なんだから」
誇らしげにヤンは言った。



同時刻。
「どうした?風邪か?」
くしゃみを連発する親友に、疾風と名高い男が声をかけた。
「いや。…たぶん噂だ。タチの悪いヤツが俺の事を言ってるんだろう」
「恨みやっかみを買うような言動を慎めよ」
「アイツに関しては、俺に罪はないと思うがな」
金銀妖瞳が美しい男は、星にぼやいた。



うふふ、さくら茶屋の芳野ちゃんから頂きましたw
寧ろカツアゲ?
「サイト作ったから何かロイヤン書いてよこせやコラw」
といって巻き上げてきたんだから、やっぱりカツアゲ?
芳野ちゃんが「りほさんの鬼・・・」と半泣きになっていたのはこの際忘れることにしますw
まぁいいんですw悦だからw
軽い色恋話に爆弾落とすヤン・ウェンリー。ツボです。
そして、ウチのSSじゃ考えられないほどヤンさんが可憐です。
やっぱ人様のロイヤン見るのは好いですねw心が潤って。(血で?)

芳野ちゃん、ご馳走様でしたw

   

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