柳暗花明
 
最近、帝国軍上層部で噂になっている事柄がある。
噂の発端が誰だったかは内容が内容だけに知れなかったが、裏を取ってきたのはいつも通りミュラーだった。
遷都後のこのクソ忙しい時にそこまでやれれば天晴れである。
「しっかしなぁ、この噂ど〜も解せねぇんだよなぁ」
「確かになぁ・・・」
「ですよねぇ」
「しかし、ロイエンタールだからなぁ」
「いや、だからこそおかしいんだが」
「明らかにおかしいな・・・」
「でも、ロイエンタールって何でもアリって気はするよな?」
「しかしなぁ、どうしても結びつかんぞ、ロイエンタールと妓館というのは」
「あのヤローが女買うと思うか? ありえんぞ」
「だよなぁ」
ガシャーーン、カラカラカラ
「「「「「あ、陛下・・・」」」」」
 
 
「パイホワ様、パイホワ様、パイホワ様――――――――!」
「なんだい騒々しい・・・?」
細いめがねをかけ、書類を見たまま、店主が問う。
「今表に、表に、おもてにぃいいいいい!」
「表にィ〜?」
どうやら面白くない書類らしい。気のない態度でまだながめている。
「皇帝陛下が!」
「はぁ?」
流石に目をあげた。なんだと?
 
『今行くから、入って頂きなさい。門前払いというわけにもいくまいよ』
店主の命令が行き渡った少女らの態度で、店の客もパニックから抜け出した。
なにせ、皇帝なんてものは、大抵そのへんをほっつき歩いているものではない。
「失礼だが、モノを訊ねたい。桃花源というのはこちらか!?」
なにやら勢いそのまま押しかけてきたと思しき皇帝と、店主の薄ら寒い笑みを、
フェザーンで一番強い生き物「庶民」は、手に手に匙を、箸を、茶わんを手に持ったまま、小さくなって観察していた。
「ええ、まぁ、フェザーンで桃花源といえばウチだけですがねぇ・・・」
パイホワと呼ばれた者は困った顔で「どうしようか?」と云う風に煙管の角で頭を叩いた。
「ご用向きをどうぞ、皇帝陛下・・・」
高級将官をずらりと連れた皇帝に対し、パイホワは本当に「どうしようか?」という気分だった。
「では、ロイエンタールという男が来ているはずだ。目立つヘテロクロミアの・・・」
「・・・・・・・・・、ああ、まぁ、いますねぇ・・・・・」
物凄く微妙な間を置いて桃花源主人が答える。
「その男の娼館通いが目に余るという話で来た」
幾分かは予測していたろうに、パイホワの黒い瞳がスーっと憐れみとも呆れともつかない冷ややかな色になる。
ちなみに、残念ながら、陛下は実は言いがかりをつけただけであって、誰もそんなことはゆってない。
ハナシに仲間はずれにされたのが寂しくて、無理矢理割り込みたかったダケ。
ウチの皇帝は常に残念クオリティ。
言いがかりだけで動けるのが皇帝という地位のいいところであり、
その残念っぷりをなんとなく透けてみてしまった店主が内心苦笑する。
「まぁ・・・、立ち話もなんですし、中へどうぞ」
パイホワの白く細い指が揃えられて、店の奥へと差し招いた。
「ちょっとからかってやろう」などという内心は、おくびにも出さずに。
 
パイホワが美しい衣装の裾を優雅に捌いて先導する。
中は意外に天井が高く、卓が雑然と置かれていた。
人々の視線が皇帝に集中している。
店主の余裕に満ちた反応を見て、大人たちはしょーがない、といった嘲りの入った呆れた目を向けているが、子供たちの視線は険しかった。
中の一人が歩み寄って来る。
「天子様?」
その目はまっすぐにラインハルトを見ていた。
「て、天使? 済まない、天使に知り合いはいないのだが・・・」
慌てふためく皇帝にパイホワは穏やかに苦笑をもらす。
「失礼、陛下。この子の云っている天子とは、皇帝と大差ない意味のものですよ」
あからさまにホッとしたラインハルトだったが、小さい子供相手に戸惑っている。
「天子様、逢魔様どこかにやっちゃうの? 逢魔様またどこかへいっちゃうの? 逢魔様連れてっちゃう人は悪い人なの! 悪いことは・・・ダメなの・・・」
今にも泣きそうな幼子に、ラインハルトはさらに慌てる。
「大丈夫だよ、小姐、逢魔はどこへも行かない。わたしがここにいる。だからどこにもいかない。大丈夫だ」
裏なく優しく笑ってくしゃりと少女の頭を撫でる主人に、少女も安堵してにっこりと笑みを返す。
そして、何故かその少女の父親らしき男が寄って来て、(なぜ娼館に親子連れが!? それも複数!! と混乱する)ラインハルトに不可解な台詞を言った。
「まぁ、天子様、努力次第でこれからきっといいこともありますって」
「望みを強くもって、がんばるのよ、天子様」
少女の母親も言い添える。
ラインハルトはなぜ慰めと励ましを受けるのかわからずに混乱していたが、とりあえず好意を受け取るべきだと思ったような、思わないような。
「あ、あ・・・いたみいる・・・・・?」
そんなラインハルトに再びクスリと苦笑をもらしてから、店の奥に立っている男を見る。
「翔、お前もだ。得物を下ろしなさい」
翔と呼ばれた明るい褐色の髪に緑の瞳を持つ青年は不満そうに唇を引き結ぶ。
見た目、武器を構えているように見えないのだが、店主パイホワの瞳は鋭かった。
「下ろしなさい」
「お言葉ですが、そいつはカイザー・ラインハルトです」
「そう、逢魔の上司とお友達だ。あいつに危害は加えるまいさ」
「旦那様に危害を加えることはなくても、あなたを害されては困ります」
「翔、見苦しい焼き餅はやめておこうじゃないか。今更オーディンのあいつの20年弱が消えるわけでなし」
青年は、まだ納得せずに「そう云う問題じゃない」と目で訴えていたが、さらにパイホワは「そう云う問題にしとこう」と目で伝えて、結局は翔が折れた。
「どうぞ」
パイホワは奥の広い卓子を示し、近くにいた十ほどの少女に茶の用意を言って、自分も卓につく。
足を組んでゆったりと座る様はのんびりと不遜だ。
「あの、聞きたいことはイロイロあるのだが・・・」
「ええ、聞いて差し上げましょう?」
優しく笑うが、その声には心なしか毒がある。
「・・・・・・・・・あなたは男性か?」
パイホワは何も反応を返さなかった、顔色を変えもしなかった。
しかし、店中の客が箸を、匙をテーブルに叩きつけて立ち上がる気配を見せたので、片手を挙げて、それを制した。
「陛下、わたしは怒りませんが、だからといってそれが無礼でないということではありません。そのような自分の齢をわきまえない振る舞いは、身内の育て方が疑われます。このあたりじゃ無礼者は人間の勘定には入れませんので、そのつもりで。あなたはご自分の大切な姉君が馬鹿にされても平気なのですか?」
ものすごぉぉく真っ当な台詞にラインハルトが目に見えてうろたえる。
「名乗りが遅れましたが、わたしはこの桃花源の主人、ここいらじゃパイホワで通っています。性別は一応男ですよ」
「申し訳ない。ただ、あなたが見たことがないほどお綺麗だったので」
そう。云われてもまだ不思議なほど柔らかな風貌だった。まぁ、内面はキツイのだろうと容易に想像はつくが・・・。
「わたしも売り物ですからね、見た目も綺麗じゃなきゃハナシになりませんよ。別にあなたの世界にはケチつける気もありゃしませんが・・・わたしは高いですよ、正気じゃないくらいにね」
ニッとあくどく微笑む。その様のなんと似合うことか。
「まぁ、その気が狂いそうなほど高い代価を払ったのが逢魔、あなたがたがロイエンタールと呼んでいる男なのですがね。・・・鈴花いいよ」
お茶を持って話の切れ間を伺っていたのだろう少女に微笑む。身内には本当に優しいらしい。
「ご注文などございますか?」
店のお仕着せなのだろう裾の長い、ラインハルトには理解できない構造の装束を纏った少女がにっこりと微笑む。冗談抜きで愛らしかった。
「招待してもいない客に奢るほどボランティア精神はないのでね、何か食べるなら自腹切ってください。メニューは此処に」
あっさりとセコく言い切ってメニューを取って渡す。
迷惑をかけた自覚はあるので、何か頼もうとメニューを開いたが、馴染みのない料理が並んでいて、種類はわかるのだがどれを頼めばいいかもわからない。
すると、先ほどとは別の家族連れが声をかけた。
「ここは、麺がすぅっごぉぉぉく美味しいの!」
幼い少年がそういえば、
「いえねぇ、さっき食べた魚もかなりのお味でしたよ」
母親が言うと父親は
「甘いなお前ら、此処の基本は水餃子だろ?」
フレンドリーである。
さらに混乱して横の鈴花に助けを求める。
その弱りきった視線が情に訴えたのか、一度考えるように小首を傾げてから名前通りの鈴のような、花のような声で答える。
「お腹はどの程度空いています? お酒を飲むなら軽くつまむメニューは大体このへん、しっかり食べたいのだったら主食とこの辺からいくつか見繕って。胃にものを入れたいのだったらウチ自慢の特製スープを是非にお奨めします。具がたくさんでとっても美味しいです」
「では、それを」
慣れないメニューに戸惑ったのか、幕僚らも全員それを頼んだ。
「質問してもよろしいか? パイホワ殿」
「先ほど聞いて差し上げると申し上げましたよ。陛下」
「此処は・・・その、娼館だと伺ったのだが?」
「ええ、そうですよ。ウチは七代前から桃花源の看板掲げて春を商っていますが?」
「私は、相場には明るくないのだが、あのメニューはかなり安いのではないか? あと、なぜこんなに家族連れが・・・・」
「元々フェザーンの相場は平均して帝国よりも安いのですがね、まぁ、ウチは今さっき申しあげたように、娼館ですけど、実入りは悪くないのですよ。フェザーンで、この龍華街に勝る質をもつ繁華街と、桃花源に勝る風俗店など存在しやしませんしね。姐さん方がよく稼いでくれるもので、その分還元しているだけです。それと治安もとてもいいので、若い地元民が奮発して食べにくる時は大体ウチかこのあたりの店というのが定番です」
「そ、そうなのか・・・」
「昼には芸事のお稽古に来るお嬢さんがたなんかもいらっしゃいますよ。なまじ男ばっかりの外なんかより、よほど安全ですし」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・娼館ってのは、そういうものなのか・・・?」
「さぁ、どうでしょう? この龍華はフェザーンに、いえ、銀河における異世界ですからね。外の方々とは習俗も文化も思想も価値観も違います。龍華の外でウチと同じことしようと思っても不可能なはずですよ」
にっこりと笑う主人に呆気に取られているラインハルトの耳に、そのときありうべからざる騒音が入った。
どたどたどたどた。
表を複数の足音がどえらい勢いでかけてくる音だ。
「「「「パイホワ!!!」」」」
「皇帝が乗り込んできたじゃとぉう!」
「どこじゃどこじゃ、みせい!」
「ほぉう、コレかや。評判にたがわぬ美人よのぉ」
「ほれ、なんぞ喋ってみんかい」
「ほんにのう・・・」
動物園のパンダのように、バタバタと囲んで、今にも杖でつつきそうな勢いだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そのあまりの事態に、思わず皇帝は反応を封じられ、パイホワはそっと己の額を押さえる。
「おじいさまがた・・・、いっときますけど、皇帝も人ですからね?」
十人はいないだろうと思われるほどの老人たちが、揃って顔を見合わせる。
「おや? そうじゃったかいのう?」
「はて? とんと覚えがないが」
「ほんにのう」
「ご機嫌よう、最高執行部」
その一言で、敬老精神の欠片も無く老人たちをボーリングのピンのように、まさしく店から一蹴すると、再びにこやかに皇帝に相対した。
「失礼いたしました、皇帝陛下。お話の続きをどうぞ」
「あ、あの、主殿、よろしいのか・・・」
「大丈夫です、どうせすぐ何食わぬ顔で復活しますから」
「それで桃花源、こいつらは何しに来よったんじゃ?」
本当にすぐ復活して突っ込んできた。
主なエネルギー源が酒の割にはしぶといジジイどもである。
(注:酒の過剰摂取は老衰を速めると聞きました。お酒好きの方はお気をつけて)
「ああ、おじいさま方、なんでも『逢魔の』『娼館通いが』目に余るそうで、わざわざいらっしゃったらしいよ」
もはや有名無実と化したタテマエをあて付けのようにいわれて、流石に皇帝もバツが悪い。
ツラの皮が厚くないと、皇帝なんてやってられませんよ、ハルト!
ハタと老人たちが止まると、一斉に「ぴゃーーーーーっひゃっひゃっひゃ!」と大笑した。
それより先に、己の言葉にこらえかねた桃花源の主が爆笑していた。
 
「何故、そんなに笑われているのか、見当がつかないのだが・・・・」
「失礼いたしましたね、皇帝陛下。先ほどの言葉、少し訂正いたしますよ。龍華は確かにこの銀河の異世界ですが、フェザーンと帝国だって、それほど似ているわけじゃあありませんね」
目の端に浮かんだ涙を拭いながらパイホワが云う。
「フェザーンで売買春は後ろ暗いことではないんですよ」
「はあ?」
明らかにカルチャーショックを受けて目を丸くした皇帝に、付け加える。
「独身なら問題ないのは当然として、旦那方は龍華に来る時は必ずその倍の贈り物を奥様にしますよ。あくまで奥様が第一だとたてるのです。フェザーンではそれが普通ですし、常識です。それが出来ない男は周りから侮られますし、第一、姐さん方がはねつけますよ」
自分を落ち着かせるためにゆっくりと茶を口に含んでから、続ける。
「龍華は客を選びますよ。金銭は勿論、良識とセンスが不足していては龍華は相手にいたしません。わたしがするのではないのです。街が相手です。いい男はいい女が育てるもの。龍華の女たちはいい女であることが義務です。いい女に振り向いて欲しいが為に、フェザーンの男は男を磨くのですよ。努力を怠らなければ叶うというのは、フェザーンのもっともいいところの一つです。そしていい男の子供が欲しいフェザーンの女は女を磨く。甘くするとお互い際限なく堕落しますから、常にどこかで活を入れ続けませんと」
「とまぁ、それは一般論じゃが」
まだ爆笑の渦が覚めやらぬ様子で、息も絶え絶えにジジイAが云う。
「ほんにのう」
「逢魔の場合はまた違うじゃろ」
「こりゃそこの憲兵、逢魔の・・オスカー・フォン・ロイエンタールの身上書はどうなっておる?」
勿論、ケスラーは憲兵「総監」である。
一般人に見せていいものでもないが、有無を言わさぬ迫力に、思わず手が動いていた。
プリントアウトされた用紙を見、「ぶほっ」と噴出してから、その紙をパイホワに送る。
「ああ、やっぱりねぇ」
片眉を上げてそう云ってから、改めて皇帝を見る。
「これによると住所は中央大陸の第八エリアの西地区、三十二番通りの十二・・・となってますねぇ」
「そうだが・・・」
「云うまでもなくここは中央大陸ですねぇ」
「あ、イヤな予感・・・」
「第八エリアの西地区、勿論ここですねぇ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「此処が何通りかはあえて云いやしませんけど、この通りの端から数えてごらんなさい。十二番目ですよ」
「・・・・・・・・・(ダラダラダラ←冷や汗)・・・・」
「ねぇ、皇帝陛下? 龍華街と帝国じゃあそりゃあ常識だって思想だって違いますけどね?」
紙をパサリと前の卓に落として、にっこりと笑む。その笑顔が怖い。
「自宅から仕事に行って咎められたんじゃ、いくらなんでも逢魔が可哀相じゃあないですか?」
ジジイどもは肩を震わせ笑いをこらえているし、他の客は気まずそうに顔を背けている。
呆れた目を隠さなかったのは、黒の上下の中国服を着た先ほどの翔とかいう男である。
「パイホワ様、その程度の下調べもしてこない迂闊なお子様に、ウチの敷居またがせるのはやっぱり業腹なんですが・・・」
「まぁまぁ翔、皇帝陛下はまだお若いんだから」
 
「お客様、お料理が出来ましたよw」
先ほどの鈴花と、似たような少女らが一人づつに碗と匙を置いていく。
「い、いただきます。・・・・・・・・・・・・・・あ、美味い」
そんなコメントが思わず出るほど美味しい料理だった。
この味とこの量であの値段は、もはや犯罪なような気がしてくる。
むしろ、フェザーンの他の飲食店の経営は大丈夫なのだろうか?
そのとき、店の奥に通じるあたりがカタンとなって、眠そうな声がでてきた。
「パイホワどうした? 何かあったか?」
「ああ、逢魔。騒がしかったか? 悪い、なんでもないんだ。まだ寝ておいで。疲れてるんだろう?」
ちなみに、騒がしさの原因は九分九厘当のパイホワである。
「悪いな、軍人辞めるの、思ったより時間かかって・・・」
ちなみに、逢魔はパイホワ以外のものにはまったくもって疎い。他にヒトがいることすら気づいていない様子だ。
「別に、無理しなくていいんだよ?」
逢魔に対するパイホワの声音は、他の誰にするよりも、低く、甘く、穏やかだ。
迷い無く己に寄りかかってきた男を受け入れ、その背をゆっくりと叩く。
「そういうわけにもいかない・・・お祖母様との契約はまだ生きている・・・」
「まぁいいよ。もうしばらく寝ておいで・・・」
てゆーか今のが半分以上寝言だった。
皇帝が、眠っている部下を起こさないように、声を顰めながら問う。
こーゆー気遣いが何事について出来ていたら、龍華にここまで馬鹿にされることも無いだろうに。
「契約といったが・・・ロイエンタールはここで何を?」
「これは「わたしを得る」換わりにそれ以外の「自分」を街に売ったんです。逢魔の目は、その由来ともなった黄昏の瞳、逢魔ヶ刻の瞳なんですが、それ以上に珍しい「セカンド・サイト」って能力がありましてね、それを街の為だけに使う。という契約をわたしの祖母・・・先代桃花源の主としたんです。期限は、わたしが死ぬまでで」
誰も知っていることだが、他の客に気を使わせないために小さな声で続ける。
「これは周知のことなんですが、わたしのパイホワっていうのは、わたしの名であると同時に、わたしの属性の名なんです。パイホワは「未来を紡げない者」に対する蔑称で、未来を紡げないというのは、まあ、この街にとって、もっとも忌むべきものでしてね。元々、白く綺麗な毒花が、あまりに毒性が強くて、神への捧げものにするしか用途がないとかってハナシだったんですけど。つまり、わたしも毒でしてね。そんな事情で、七つになる前に殺される予定でした。物心つく前からそういわれ続けたので、別に不満とかがあったわけじゃなかったんですが、五つのときにたまたまこの「神」をわたしがナンパしてきましてね、今、こうして女衒なんかやってる次第ですよ」
作り話のような内容に首をかしげるばかりの皇帝は、実はていよく誤魔化されていることに気付かない!
 
なんとなく、狐につままれたような気分で皇帝一行が帰途に立つのを見送ると、店内にいた人々は一様にホッとため息をつく。
中には、いくらかの感嘆のため息もあった。
「なかなか気付かないものだな」
云ったのは逢魔ことオスカー・フォン・ロイエンタールだ。
一応気づいてなかったわけではないようだ。どうでもよかっただけで。
「別に顔を変えたわけでもないんだけどねぇ」
そう云うのはパイホワこと・・・。
「けどお前、明らかに別人だろう? 振る舞いも、声も、口調も、・・・性格もか? パイホワの時と、ヤン・ウェンリーの時と」
辞表一枚でさっさと辞めてきた方の元帥は肩をすくめる。
「さぁねぇ、わたしは意識しちゃぁいないけどね。でも、外は疲れたよ。万事まだるっこしくてさ。いくら先代の命だったとはいえ、二度はゴメンだね」
「安心しろ。俺も街も、生涯手放すつもりはないから」
 
とまぁこんな感じで二人は(色々な不幸や幸せの上で)末永く幸せに暮しましたとさ。
 
おしまい (にはなれない)

 

 
ちわっす、あとがきです。りほです。
誰がなんと云おうと五万打キリリクです。リクエスト内容一個も消化できてなかろうが、リクエストから半年以上かかっていようが、とにかくキリリクです。
五万打キリリク十月十六日です。リクエスト受けたの十月二十日です。
今日は四月二十九日です。    馬鹿じゃん俺?
 
↑というのが、一番初めに書いたときのキロク。
五万打をとってくれた陸さまに捧げました。
 
ちなみに、コレ、もう一本続きます。
今度こそ完結!


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