子供の時間
 
ぶわわわわわーーーん ←首振り扇風機の回る音
「あ~~~」
チリリリーーン ←風鈴が風でくるくると回る音
「ん~~~~?」
ぱたぱたぱた ←やる気のない団扇の音
「あついな」
ジージージージー ←蝉の音
「そだねーー」
 
けど、大丈夫~、まだいける~
そう云ったヤンは、コロンと身を転がして、寝返りを打った。
まだ寝るつもりらしい。
相方の根性にロイエンタールは感心した。
ちなみに彼が手にしている団扇には日本語で「暑さ千倍!!」と暑苦しい書体で書いてある。
 
雨戸も簾戸も全開で、
タタミの上に更にゴザを敷き、
まだなんとか涼しさのある午前中の風の中、
ロイエンタールとヤンは、大の字で寝転がっていた。
やる気は、これっぽっちもない。
何をだ?
ちなみに、今日は夏休み第一日目である。
夏休みは寝て過ごすためにあるんじゃないんだよ、キミタチ!
ロイエンタールはそれでも、手元に・・・いや、足元のほうに投げ出してあるプリントを大の字のまま、怠惰そのものの態度で、ぐるっと回って手元に寄せた。
「あ~~『夏休みのしおり~』・・・・って、なんであのジジイはこんなもん手書きで作ってるんだよ?」
「またアレじゃないのーー、校長お得意の、懐古シュミだか、ロマン主義だかなんだかで~」
「だいたい、このミョーな手触りのガサガサな紙ってなんだよ? これもカイコだか浪漫だかの代物か?」
「わらばんし」
「ん?」
「藁半紙ってゆーんだって、その紙」
「ふーーン」
「てか、学年の途中に夏休みがあるのって、ウチのガッコくらいだよね~~」
「まったくだぜ。聞いたことないぞ、そんなの」
と、ヤンの声がくぐもっているので、仰向けに寝転がったまま顔を向けてみれば、ヤンはいつの間にか、もう四半周してうつぶせで寝転がっていた。
あーー、その格好、デコにアトつくぞ。ぱたぱたぱた
↑口に出していわないロイエンタール。
かわりに、寝っ転がったまま、プリントを読み上げる。
「『朝10時まで勉強しましょう』・・・、朝10時ってなんだ? なんの根拠があるんだ?」
「あーー、ってか、夏休みの宿題ってどんだけあるの?」
「うん? えーと・・・『1、「夏休みのよてい」を作る。2、「夏休みのドリル」一日一ページ。3、絵日記。4、自由研究。5、読書感想文。(6、朝のラジオ体操)』・・・ラジオ体操、しなくていいのか・・・」
「あきたらやめればいいんじゃない? ラジオ体操」
「ん、そだな」
一応、各町内会の公民館で。と決められてはいたが、何しろこの地区には子供が二人しかいない。つまりロイエンタールとヤンだ。
6時半にラジオから流れてくる「ラジオ体操の歌」にあわせて起き、外に出て「ハレグゥ体操DX」をやるぐらい、大したことではない。
監督する大人もいないので、お互いにスタンプを押した。とりあえず今日は。
「つか、宿題、すくないねえ」
「このネタで毎朝10時まで何しろって?」
ぺらっぺらな「夏休みのドリル」をパーーーとめくってみるロイエンタール。国語(どれだよ?)算数理科社会が1ページでおさまっている。5分で終わりそうな内容で、教師が何をさせたいかがよくわからない。
「超絶技巧で絵日記描けとか?」
「自由研究にめっちゃ凝れとか?」
「ああ、それもあったか~」
「つか、宿題に絵日記ってなんだよ? そんな宿題きいたことあるか?」
「しらないよ~、校長せんせーの考えることなんて、児童には計り知れんさーー」
「そだな。考えるだけ時間のムダだ」
と、ロイエンタールはぐるっと身体をひねらせ、一番簡単そうなドリルに手を伸ばした。その気配を感じ取り、ヤンも身を起こしてドリルを開く。
腹ばいで宿題するのやめなさいよ。
「ねえ、オスカー。とりあえず、絵日記の天気のトコだけ毎日書く? そしたらアトで調べなくていいじゃない」
「つか、絵日記最後まで書くか? 書いたとおりに毎日すごせば日記になるだろ?」
「ううーーーわーー。たまにお前と喋ってると、自分がすっごい真面目人間な気がするよ」
そんなグダグダやっていると5分で終わった。
「夏休みの予定でも作るか・・・」
「ドリル続きやっちゃおっかな」
ロイエンタールは上に「一日の予定」と書かれた白いドーナツを見てしばし考えていたが、
「んっ」
一言いうと、予定を簡単に書いた。
『おきる、メシ、フロ、あそぶ、ねる』
「うっわ、オスカー、それ円グラフの意味ないよ。まったくないよ」
線の一本も引かずに、凄くあいまい。とてもあいまい。おきる、ねる、はまだ前後一時間くらいの見当が付くが、メシ、フロ、遊ぶ。の範囲が広すぎる。
「けど、私もマネしよ」
『オスカーといっしょ』
「どっちがやる気ねえんだよ!!!」
「オスカーと仲良しだもーーん。いつもいっしょだもーーーん」
「いや、そら、そうだけど・・・」
と、夏休みの予定の続きを書こうとする。てか、続きも何も、その宿題は円グラフと夏休みの目標。しかかくところがない。
「もくひょう・・・」
ロイエンタールは眉を捻じ曲げた。そんなものはない。
「んんーーーー?」
どうやらロイエンタールにはコレが一番むつかしい宿題かもしれない。
「まあいいや、後回し」
と、ロイエンタールが見ると、ヤンのドリルが3日分くらい進んでいる。
「それ終わらせちまうと、夏休みやることなくなるぞ?」
「いいんじゃない?」
「それもそうか」
とりあえず飽きるまで・・・と、二人のカリカリ書くおとが続く。
「なぁ」
「んーー?」
「自由研究どうする?」
「そだねーーー」
カリカリカリ
サラサラサラ
「夫婦円満四十八手をイチから試して、どれが一番感じるか実験ってのはどう?」
「プっ、はははっ、それいいなァ。バカで」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「って、夏休み48日もねーべ」
「ごめん、私もそこまで体力ないわ」
↑じゃなかったら、どーするつもりだったんだ、お前ら。
 
ガシャン
「おーー、はーーー、よーーーー! あそぼーぜ、二人ともーーー」
自転車が止まる音がして、玄関から声が聞こえた。
そのころ、ドリルはとっくに飽きていて、二人で自由研究のネタを言い合っていた。
「今日から楽器はじめて、夏休み中にどこまで弾けるようになるか実験ってのは?」
「暑いだろソレ?」
「んじゃ、オスカー」
「毎日ムシとって、どの日が一番取れるか実験?」
「おまえら、最後に実験ってつければなんでもいいって思ってない?」
かって知ったる他人の家、にズカズカ上がりこんできた同級生に、ロイエンタールが寝転がったままキロリと目をやる。
「そーゆーお前は10時まで家にいないで、何しにきたんだよ?」
「自由研究のネタ探しにきたんだよ。ウチに閉じこもってても自由な発想は生まれないだろ? 今は、外に無限の可能性がある夏だぜ?」
「なるほど」
「そういう詭弁もあるか」
その言葉に心動かされた二人が同時に身を起こす。
「つか、詭弁とか云って欲しくないんですケドーー。てか、詭弁で動くなよお前ら」
「とりあえず、プールでも行くかぁ」
「どっちが長く潜れるか競争ね~」
そうして夏休みははじまるのである。
 
そんですぐ終わる。8月31日。
「あっ、オスカー、読書感想文やってないよ!」
「ああ、そういえば・・・」
「とりあえず、私は夏休みに読んだ本からテキトーに書こう」
「んじゃ、俺は・・・今から何か読むかな?」
 
9月。
『銀河英雄伝説を読んで   ヤン・ウェンリー』
『はらぺこあおむしを読んで オスカー・フォン・ロイエンタール』
「バッッカどもが・・・はぁあ」
なんで教職を志したんだろう・・・。
原稿用紙一枚に「かんどうした」と書きなぐってあるヤンと、
原稿用紙十枚ほどに、さまざまな角度から考察するロイエンタールと、
どっちが不真面目なんだろう・・・
と、残暑厳しい中、哲学的に悩む校長先生の姿がありました。
注:校長先生は五組の担任の先生です。名前はまだない。
 

 

端切れシリーズその1。
どのシリーズとも繋がらないけど、他所のハナシのネタも使いたい。
なので、遊びにきたともだちはカラクァー・ベアトさんなんですが、
あのシリーズは基本女ヤンさんなので、
このハナシはあのハナシとつながりません。
 
セット(舞台)はウチのサイトの「五月雨」と一緒だよ!
田舎の日本家屋! イメージはサツ○とメ○の家。
キャストはベアトさんと校長先生が客演ってカンジ!
校長先生は、そのうち出てくる。新しいシリーズで。
夏休みは昔から全力でgdgdです。
 
楽しい企画をありがとう、芳野ちゃんv
見てくれた人にも、心からのありがとう、を。
読んでくれた人の夏が、少しでも楽しさを増しますように。

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