メリー・クリスマス and ハッピーバースディ
 
 
「雪を食うな・・・、ポプラン」
「えー?」
あーん、と降る雪に舌をだしているポプランをコーネフが咎める。
「折角のキャゼルヌ中将からのクリスマスプレゼントじゃんか」
食う以外どうするの? と首を傾げる。
「第一雪なんかどこがいいんだ? お前」
「えー、いいじゃん、好きだよ俺」
ぶんむくれるコーネフにポプランが傾きを逆にする。
「お前の実家って雪の多いとこだっけ?」
「ああ、冬なんか埋まるぞ。家が。毎年大変だった」
「アルプスの少女かよ・・・」
つい克明に想像してしまったポプランが腹を抱えて爆笑する。
「お前は・・・・またオレのイナカについて不愉快な想像をしてるな?」
「はひょ、ひゃ。う、ぐは」
なまじっか美人なせいで怒った顔がとっても恐いコーネフの為に笑いを収めようとするがなかなかうまくいかない。
それでもなんとか、涙を拭いながら答える。
「で、でもさ、お前実家好きじゃん? だったらいーじゃねーか。雪もさ」
「まぁ・・・な」
「でも、俺はやっぱ好きだな、雪。奇跡っぽくて」
「奇跡? 自然現象だろ?」
「俺がはじめて雪みたのも、やっぱりクリスマスだったぜ」
子供のように嬉しそうに笑う。
「やっぱさ、クリスマスには奇跡が起こるんだよ」
「ポプ・・・ラン?」
その笑顔に違和感を感じたコーネフは内心心配して眉を顰めた。
 
 
「何、コレ・・・」
もう一歩も動く気力は無く、どこかの塀にもたれてこのまま死ぬのかな? と思った。
そんなときにも、この何かを疑問に思い、口に出せる自分を不思議に思い、ゆーちょーにそんなこと考えている自分も不思議に思った。
空から降って来る白い、雨とも違う何かは、生まれて初めて見るもので、いつまでも見ていたい気にさせられたけど、そうしている間にも瞼は段々重く、なって。
(まだ、見てたいのにな・・・)
 
どれくらいそうしていたのか、サクっサクっという足音で目がさめた。
それは何時の間にか地面にも、自分の体にも積もっている。
「寒い! 寒いってばさぁ逢魔!」
「だから、さっさと帰ってるんだろうが!」
もう、目の前で起きていることを認識する力も残っていなかったが、それでも目をあけた。
「ん?」
後になってから思えば、自分よりいくつか年上の二人連れ。そのちょっと背の高い方の人間が先に自分に気付いた。
「どうした、チビ。死ぬのか?」
「よせ、逢魔。構うな」
もこもこと着膨れて、それでも寒そうな髪の長いほうが息で指先を暖めながら眉を顰めて言う。
「しかし、今見たしな」
「だーかーらさ!」
死にかけている子供を前に悠長に口げんかをはじめる二人に、反感は、湧かなかった。もう、どうでもいい。
だけど、目の前に人がいるなら、どうでもよくないことが、一つだけあった。
「なぁ、コレ、何?」
「ん?」
「は?」
それは、目の前の音量に対して、とても、微々たるものだったけど、それでも二人は同時に気付いてくれた。なんとなく、嬉しいような気がした。
「この、冷たくて、綺麗なの」
「よくこの死にかけてる状況で、この白い悪魔を綺麗とかいえるねぇ」
髪の長い方が、変なところで感心する。
「ああ、これは、雪だ。ここいらじゃ降るのは十年ぶりだそうだな」
親切にも背の高いほうが教えてくれた。
「ゆき・・・・」
「で、お前、死ぬのか? ほっとくと凍死すると思うが」
「するみたい。餓死と、どっちがはやいかは知らないけど」
「そりゃあ、この今だったら凍死のほうが早いだろぉ」
「お前・・・」
ふざけるように云った片割れに、背の高いほうが、嘆息のように云いかけるが、
「逢魔! 拾って帰るなんてゆーんじゃないぞ!」
きっぱりといった髪の長いほうに背の高い方が今度こそ長いため息をつく。
髪の長いほうが云ったことのほうがどう考えてもここいらじゃあ正論だった。
ここからそう遠くない区画では自分みたいなのがゴロゴロいる。
死ぬんなら、せめて人のいないところがいい。と、ここまで歩いてきたのだから。
「けど、今、見たぞ?」
「今、ここで死んだほうが、この先辛い思いもしなくて済む・・・」
今にして思えば、結局この二人は二人とも、とっても甘いやつらだったのだ。
「・・・、解かった」
背の高い方が目の前にかがみこんだ。
「俺は今、お前にやれる金がいくらかある。けど、お前が今ここで死ぬんなら、その金をお前にやるのはまったくの無駄だ。どうする? お前。生きるか、死ぬか?」
そのとき初めてその男の顔を正面から見た。
「・・・・・・・・・・すげぇ」
寒さも空腹もすっ飛ばして呆然とそれを見た。
「ああ、この瞳が珍しいか? 祖母はトワイライト・アイ、と名前を付けたが」
「トワイライト、夜と昼の狭間?」
「ああ、黄昏時、逢魔ヶ刻のな」
「お前今日知らないものいくつ見たんだい?」
髪の長いほうが笑いを含ませて云う。
「死ななかったら、そんな凄いもの他にも見れるのか? 生きるって、そんな凄いことだったのか?」
体の、芯が凍えて、頭も麻痺していたのに、そんな言葉が口をついて出る。
「死に、たくない」
「今までよりも、辛い思いをすることになっても?」
髪の長いほうが冷たく問う。
「・・・・・・・・・・・・・・・・、うん」
少し迷って、それでもはっきり答えたら、背の高い方が少し笑ったように見えた。
くるんだ札を手に握らせる。いくらかの金というには多い金額だと、そのときの自分は思った、ような気がする。
髪の長いほうは肩をすくめてもこもこのコートのポケットを探ると、小さな瓶をくれた。
「パイホワ?」
背の高い方が首を傾げる。
「ポケット・ウィスキーなんて持ってたのか? お前」
「まぁいいじゃん、クリスマスの奇跡ってことで」
「あ・・・・」
そのときの自分は、謝意を表す言葉さえ知らなかった。
それに気付いたように、男が振り向いていった。
「メリー・クリスマス」
「は?」
「今朝、姐さん方がそう云っていた」
「ああ、今日は大昔の聖人が生まれた日らしくて、それを祝う言葉らしいよ」
「もっとも、その聖人の宗教が栄えていた時分ですら、今日じゃないというほうが定説だったらしいが」
「その聖人の名前が確か、イ・・・なんとか」
「イエス・キリストだ、ボケ。こないだ教わったばっかだろうが」
「だって、興味なかったんだもん。ま、気分ってことだよ。クリスマスには奇跡が起こるらしいし。・・・メリー・クリスマス」
「めりー・・・くりすます」
その言葉を掛け合うという行為が、無性に、嬉しかった。
「ああ! もう、こんなトコで延々立ち話してたら寒い! 寒い!寒い!」
「今、思い出しただろ、お前」
「そんなんどうでもいい! 寒い!寒い!寒い!」
「うるさい! 帰ったら死ぬほど暖めてやるから喚くな!」
「ハン、知るかよ! 家帰ったらぬくぬくとお風呂に入って一人で寝てやる!」
そうして、ぎゃんぎゃん口げんかをしながら帰っていくその姿に、やたら憧れをいだいた。
 
それにしても、あの時死ななくて本当に正解だった。
「コーネフ、愛してるw」
不機嫌な恋人の背中に抱きつく。
この恋人は雪以上に冷たくて綺麗だ。
こんなものに会えるなんて、あのころは考えたこともなかった。
今、生きているから、この腕はこの恋人を抱ける。
「うるさい、寒い」
「でも、コーネフさん? 俺なんでお前に誕生日プレゼント買っちゃいけなかったんだ?」
「・・・、オレの欲しいものは、金じゃ買えなかったから」
「・・・、それって俺のあげれるもの? だったらなんだってあげるけど」
「ああ」
「なに?」
「お前」
きっぱりといわれた言葉に、ポプランが凍りつく。
振り向いた色素の薄い眼差しが、まっすぐにポプランを射抜く。
「そ、それは・・・」
冷たい眼差しが、まっすぐにポプランを射抜いていた。
 
あれから、暫くたって、俺は結局、逢魔様とパイホワ様のところにいた。
パイホワ様から貰ったウィスキーを飲んだら、もう立てないと思っていた体が動いたのだ。
アレが結局、本当の奇跡だったのかもしれない。
それからイロイロちょこちょこあって、逢魔様とパイホワ様のところに行ったら、あっさりと入れてくれたのだ。自分から来る者は拒まないところらしかった。まるで詐欺。
歳も、そのときパイホワ様が決めてくれた。
本当に助かった。あの時1年でもズレていたら、軍専科学校で俺はこの恋人にめぐり合えてなかったかもしれない。
 
しかし、ポプランはあの時逢魔とパイホワの為に死のうと思ったし、今だってそのつもりだ。
それを・・・この恋人に、どういえばいいのか、いや、いえなかった。
自分とは違って、愛すべき家族がいるこの冷たくて優しい恋人には。
 
「やっぱり、お前はオレのことを愛してはいないんだな」
「愛してる!」
「じゃあ訂正する。「それほどまでには」愛してないんだな?」
「そんな・・・そんなこと・・・」
「ポプラン、一つだけ覚えておけ」
再び後から抱きしめて、肩口に首をうずめるポプランの腕を、コーネフがポンポンと叩く。
「この先、オレが死のうと、お前が死のうと、オレは、お前のものだ」
「逆、じゃんかぁ、なんで、俺が、お前にプレゼント貰わなきゃいけないんだよ」
その声が震えていることには、コーネフは言及しないでおいた。
「じゃあ、俺がお前にプレゼントを贈る権利を貰うのがプレゼントだ」
とってもインチキくさい台詞にも、ポプランは顔をあげない。
どのくらいそうしていだろうか、低い声でポプランが言った。
「ハッピーバースディ、んで、メリー・クリスマス。・・・ホント愛しているよ、コーネフ」
「メリー・クリスマス、ポプラン」
 
 
「愛してるといっただろうが・・・・」
バーミリオンが終わってもうじき六月。
あの何機墜ちたかもわからない死戦の中で、それでもどうにか二人で生き残った。
部屋にあった置手紙を握りつぶす。
『ごめんなさい、ごめんなさい、コーネフ〜
 宇宙より、スパルタニアンよりも、この世のほかの何よりも愛してます。だから許してぇ〜』
このなっさけない文章は間違いなくヤツの直筆だ。
この文章一つでポプランは姿をくらました。
「オレから・・・逃げられると思うなよ、ポプラン」
修羅の憤怒と決意を篭めて、コーネフが低くうめいた。
 
ぴるる ぴるる ぴるる
 
そこに、可愛らしい音を立ててヴィジホンがなった。
どこからだ? と思ってとると、見知った顔が画面に映った。
「やぁ、コーネフ」
「ヤン・・・元・・帥?」
我らが軍司令官がにこにこと笑っている。
「コーネフ、ポプランがどこ行ったか知りたいかい?」
ニンと根性の曲がりきった笑みをヤンが見せる。
 
いつだって I love you, more than you, You love me 少しだけ、片想い
 
続かないけど 終わらない

 

 書き直したあとがき
えー、誤解のないようにいっときますが、ポプコーです。
コーポプじゃぁありません。あしからず。です。
ポプ→コーに見せかけて、ポプ←コー? 両想いなんですケドね。一応。
いいんです、少しだけ片想いだから。
りほさんは押せ押せなコーネフが大好きです。
とかいいながら、気付くとコーネフ一回もポプに「愛してる」って云ってません。イマイチ卑怯くさいです。
 
これはりほの出身?サイト地下茎の会のサイト五万打キリリク「柳暗花明」のサイドストーリーです。
いや、五万打キリリクにポプ×コーの出番はないんですが、実は行間(?)でこんなことが進行してたんです。
てゆーか、ポプコー出すの初めてです。
でも、書いてないだけで、眠らない街とかでもポプとコーはカップリュなのですよ。
眠らない街でも、こっちでも、コーネフ生きてますね。気にしないで下さい。
好きなんですもの、コーネフ。
 
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