金木犀の夢の中で

 

同盟軍の奇跡と謳われた魔女は金の星の絨毯に転がりうっとりと目を細める。

最近気づいたことだ。

この庭の木々は優しい。

この庭が特別なのか、植物はすべからくそうなのか。

命がけで、精一杯生きて、なおかつ無限の慈しみをそそいでくれる。

あたたかい布団にくるまるような。

この庭の木々は優しい力を与えてくれる。

甘い香りと、優しい夢に、もう一度目を閉じた。

寝返りをうった黒い髪に金の星が絡んだ。

 

(・・・綺麗だ)

宵の突風で一気に散ったらしい、金の星々が庭に広がっていた。

(今年の花も、もう終わりだな)

花の香りも、咲き誇る頃から、散る頃の香りに変わっている。

サクサクとロイエンタールは庭を歩く。

散歩半分、妻をさがすのが半分だ。

風は冷たいはずだが、何か優しい気がした。

こんもりと茂るユキヤナギの緑をこえると、いきなり視界が開ける。

美しい妻が、夢をみる人形のように、美しく眠っていた。

(ああ、綺麗だ)

 

ロイエンタールの妻となったヤン・ウェンリーは夢をみていた。

星空に浮かぶ金木犀の夢だった。

あたたかくやわらかい星空が、心地よく、なぜか涙が出そうだった。

「あの」金木犀だ。ロイエンタール家の庭に咲き誇る不思議な木。

不思議な夢は、音までが不思議だ。

星を砕いたような、綺麗な音が耳に届く。

そこは夢らしくヤンは気づいた。これは、金木犀の声だ。

何を云っているのかはわからない。普段夫が聞いているのはこの声なのだろう。

いや、歌なのだろうか? 彼ならば意味がわかったはずなのに。

けれど、何か、とても一生懸命に聞こえたので、

ヤンも一生懸命耳を澄ました。

ヤンに語りかけてくる、優しい、あたたかい、いつくしみの。

「いいえ、こわくないわ」

意味もわからないまま、ヤンはにっこりと笑っていた。

「ええ。ありがとう」

お礼をいわれたような気がして、ヤンは、感謝の言葉を返してみた。

なんとはなしに、通じている気がした。

 

金木犀の木の下、眠っていた妻が星のような瞳を開く。

夫を見つけて、幸せに微笑んだ。

「聞いて下さい、あなた。不思議な夢をみたんです」

大人しく夫の腕におさまりながら、ヤンがふふふと笑う。

いまだ夢見心地の笑みだった。

「夢の中で、私はこの金木犀の前に立っているんです。とても、優しくて、あたたかくて、幸せでした」

まだ胸にぬくもりが残るかのように抱きしめる。

「そうしたら、金木犀から黄金があふれ出したように、きらきらしたものが湧いて出て、目の前に夜空に浮かぶ星のようなグラスに、輝きを放つお酒がたまるんです」

うっとりと夫の胸に頬を寄せ目を閉じた。

「私は金木犀にありがとう、とお礼をいってそのお酒を飲むんです。とても美味しかった。あたたかい熱が喉から体中にふんわりと広がって、不思議な力が指先までいきわたるようでした。そして、その不思議な力は体の芯で一つになったみたいでした」

そっと夫の頬に添えた指は、本当に不思議とあたたかかった。

ロイエンタールは首を傾げる、日差しはあっても、風は冷たいのに。

「かわった、夢でした」

微笑んだ妻の瞳は、甘い色を湛えて潤っていた。

「変わった夢だな」

くりかえした夫に、ふふふ、と笑って、もう一度瞳を伏せた。

「おわかりにならないわね。ええ、もうすぐわかります。でも、今はまだ、少しだけ、こうしていさせて・・・」

「なにがだ?」

 

「いいの。すぐにわかるもの」

優しい音がして、金木犀が星のように風に舞った。

 

 

 

ヤン提督は、金木犀の精じゃなくて、お星様の精なんですね☆←(笑)

今年はやたら寒いので、ひたすら夢見心地で、あったかくあったかくしてみました。

ちなみに、このハナシ、シェーンコップがきた話の三日後ぐらいです。

ヤン提督、めっちゃ適応はやいですね☆

 

これをリクエストしてくれたまぷさんと、

これを読んでくれたあなたへ、感謝をこめて。

よし、もう一年ひっぱった!


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