うちのロイエンタール、色んなパターンいるけど、自分の子供に愛情抱いてるやつって、いないよね。という発想から、こうなりました。

 うん、注意事項です。

 

 

   金木犀が謳う夜

 

―――海?

 

ロイエンタールの意識は浮上した。ここはどこだろう?

奇妙なほど美しいところだった。

 

―――星?

 

海中かと思ったが、息は苦しくない。

見上げれば、いや、あたり一面にたゆたう、星?

 

―――波?

 

地に着けた手に意識を下にむければ、右のてのひらから広がる波紋と、

あわせて広がる、オレンジ色の無数の小花。

 

―――森?

 

いや、慣れしたしんだ屋敷の森のようだが、違う。

深く、青く、夜の如く、海の如く、けれど、己を包む。

 

―――雨?

 

やわらかく、ほのかに灯り、優しく降り注ぐ、金平糖のような花弁。

身に馴染みすぎたそれに、思わず笑みが浮かぶ。

 

「夢、なのだろうな」

 

呟いた声は、なぜか満足そうだった。

 

おそらく己は、「妻」を抱きしめて眠ってでもいるのだろう。

あたり一面の「夜」それ自体が彼女そのものであった。

甘い香り、金の花。

愛しく、優しい夢。

 

「セイ」

 

金木犀の精のすむ世界とは、このようなものなのか。

ならば、ここが彼女の故郷なのか?

淡く暖かな光を帯びて、あわ雪よりも優しく降り注ぐ金木犀の雨を、ロイエンタールは満たされる心と共に、ながめ見上げていた。

 

独り、とは思わなかった。ここは、妻を感じる。妻の空間だ。

もしくは、彼女自身が眠る夢の中だ。

意識が深く、満たされて落ちていく感覚に、ともに眠ってしまおうか、

と思ったとき、目の端をかすめる、小さな花の手毬を見た。

 

 

「・・・ああ、そうか」

それを見つけて納得した。なるほど、こんな風なのか。と。

『パパは ママが だいすき ね?』

樹精の子供とは。

「ああ、大好きだ」

『ふふふ うれしーぃ』

おさない声。弾むその調子に間違いないように、ふわんふわんと踊るようにロイエンタールの周りを回った。

「木の精の子供というのは、こんななんだな?」

『うん パパと ママが 大好き!』

「名前は?」

今の少しの間に、声がずいぶんはっきりしてきたようだ。

もしかしたら、今意識が芽生えたばかりなのかもしれない。

『パパか ママが つけてくれるよ?』

そういうものなのか、と受け入れる。

不思議と、妻と相談、とは思わなかった。

 

「なら、マリエ。毬衣だ」

『ぅわぁい! なまえっ マリエ・・・マリィ!』

そうか、本名を隠す感じか?

『マリィは、パパとママがだいすき!』

 

あまり知能が高くないってオチはないよな? 下級精霊っぽいし。

などとロイはひどいことを考えるが、

その溢れんばかりの喜びを表す娘に、これが生命力かと目を細める。

 

人間なら、0歳児かその前だな。

これからか。

ん? 木の精の子供ってどうやって育てるんだ?

 

ロイエンタールのあさってな子育ては、・・・・はじまった?

 

来年に続く

 

水をやると育つ娘。

エマイユの名前をつけたとき、じゃあマリエはどこにいる?と思ったのを、

スルーしました。

スルーした結果が今ここにたどり着きました。

はじめ安直に毬花にしようと思ったんですが、

折角毬なんだから、マリエだろう、という次第。

トシがバレるネーミングです。

ちなみに、マリちゃんは悪役王女ではないし、高笑いもしませんし、エマイユと双子でもありません。


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