Chaotic  Party    下

「うわっ、くらっ!」

視界は二メートルほど。

「陽光がはいんないんだなーー、酸素があってよかった」

「それをありがたがるレベルか・・・」

雪、ガラ、時の順。意外とガラが頭脳労働担当かもしれない。

「あのねー、こっち。こっちだよー」

「「「のぞみ!!」」」

「壁にね、あかりあるよ! とれるよ!」

ちゃらちゃらちゃっちゃっちゃーーん

パーティーは「マップ」を手に入れた。

「「「いや、違うし!!」」」

北の太守の息子はアイテムじゃありません。

「うん、ランプね。えーと、火は・・・」

「ああ、それくらいならできる」

しぽっ

指をこすり合わせてランプに火を灯す。初歩の火炎魔法だ。

「ガラって魔法得意?」

「火炎魔法だけなら中級くらいかな? 他は初歩の魔法くらいだ」

美時の問いに首をかしげてガラが答える。

「火の、魔法が得意だな・・・」

『ガラ・ニーザ。最後の炎という意味だ』

北の太守の言葉が思い出されて、ガラがじっと手を見る。その表情をみた真雪が勢いよくその手を掴んだ。

パシッ

「いこっv ガラ」

顔中どころか体中から笑う真雪に、つられてガラも笑ってしまう。

「そうだな、いこう、真雪」

「じゃあ、とりあえず望。咲子おばさんの部屋から案内してくれるか?」

美時の瞳の奥が優しい。北の太守の一人息子は元気に答えた。

「うん! まーかせて!」

 

「おかーーさん!!」

望が部屋をあけるなり、ホッと一息洩らして寝台にかけこんだ。

部屋では太守夫人の咲子がすぅすぅと安らかな寝息をたて、わずかに笑みを浮かべた顔で眠りについていた。

親しいとはいえ、寝ているご婦人の部屋に勝手に入るのを躊躇っていた子どもたちだったが、さあどうしよう?

「おかあさん?」

呼んでもゆすっても起きない母を望が不審がる。

咲子の傍で看病していたらしい侍女も起きる気配がない。

真雪を残して、ガラと美時がそれぞれ他の部屋を見に行ったが、すぐに戻ってきた。

「厨房にいったけど、誰もみんな寝てて起きない」

「薔薇の咲いてない、いばら姫だね。これは多分城中寝てる」

「「「・・・・・・・・」」」

「たいていパターンとしては、後から入ってきた人間は眠らないのよね?」

「じゃないと、物語が進まなくて、意味がないからな」

「てゆーか、今の時点で寝てないなら、心配しなくても大丈夫だと思うぞ」

一番真面目な意見を云ったのはガラのようだった。

朱に交わってだんだんガラが常識人キャラを任されてきたらしい。背中にこうもりの羽はえてるけど。

 

「ねえ、シャリア。子どもたちが出てくるまで一歩も動かないつもり?」

「寒くはない」

王妃以外いないのをいいことに、思う存分ぴりぴりしている北の太守を、ヤンが覗う。

「いや、かなり寒いと思うけど・・・」

「一時間たって出てこなかったら、城五寸刻みに切り刻む・・・」

子どもたちの前では冷静なフリしてた北の太守だが、思いっきり眼が据わっている。こわっ。

「それは、いくらなんでもお前の体力が持たないよ。一族の秘宝とはいえ、そんな大人しい剣じゃないはずだ」

「ウェンリーでも中に入れないか?」

「無理。分類がわからない。ちょっと触った感じでもわたしの分野じゃないね。だけど、どの道人間には無理だよ。お伽話の伝説の魔法使いでもないと」

「お前だって、いずれお伽話に語られる、伝説の救国の魔法使いだろう?」

「そうだね、破壊魔法だけなら歴代でも五指に入ると自負するよ」

「・・・、あんまり自慢にならない王妃だな・・」

わずかに緊張を抜いたシャリアが、心配げに王妃を振り向いた。

「ウェンリー、お前は寒さに強くないだろう? どこか暖かい・・」

「このコート、寒さに弱いこの国の王妃様特製、小春日和仕様。心配いらない」

「ウェンリー。子供たちが心配なら、素直にそう云え」

北の太守は呆れた声で嘆息した。

 

というわけで、望に「お母さんの護衛」を頼んで、美時たちは当初の目的に戻った。

まあ「マップ」がなくても、見知らぬダンジョンではないし、そもそも城なので、そんな奇抜な作りもしていない。

向かったのは宝物庫だ。

城内の人たちの生命に危険はないとわかったので、北の太守に指示された通りに行く。

本当の太守の指示は城内の様子如何に関わらず宝物庫に行って帰って来い、だったのだが。三人とも綺麗に無視した。

きっかり一時間で同じ場所に出口を開いてくれることになっている。

「お前たちどこ行くの? そっちじゃないデショ」

はっと気づけば、雑談で折れるべき廊下を通り過ぎていた。

いや、そんなのはたいした問題ではない。

「時間ないんだから、さくさくいこーねv」

「「「ナレーションのおじさん!!」」」

「そーですよー♪ ホラ、さっさと、宝物庫の扉あけてくれよ」

顎をむけた拍子に長い髪を飾る色石のビーズがしゃらんと綺麗な音をたてた。

うっかり見蕩れた次の瞬間、三人の子どもは愕然と硬直した。頭の芯から冷たくなっていく。

ここにこれる人間はいない。

少なくとも、自分たち四人以外には、誰も。

それなのに彼に警戒をいだけない。三人は三人とも自分の甘さにめまいがした。

この男の軽薄な態度の奥の優しい瞳に、つい心がゆるむのだ。

いずれ関わらざるべき危険な相手には違いないのだが・・・。

「あなた、人間じゃありませんよね」

この国の王子のありったけの敵意を込めた双眸に、相手は美貌の笑みを深めただけだった。

「ナレーションなんだから、どこにでもでてこれるんだヨ?」

軽やかにウィンクをかます。

「こんな冒険しょっぱなから正体明らかになっちゃつまんないだろ〜」

「じゃあ、明らかに不審なプロフィールをお願いします」

その清清しいほどの態度の大きさに呆れかえった王女が要求する。

「あやしげな自己紹介ねえ・・・。ふぅん? 俺はフェザーン王国成立以前のこの地に存在した先住民族の調査研究をしてる、考古学者だよんvv めったに見れない北の太守の宝物庫に興味あるからきちゃった☆ てへっv」

ひやひやひやひや〜〜〜

「あぁぁ。三人とも、なんてコールドな視線!!」

「人智を超えた魔術師が、歴史学者?」

「さぁて?」

睨むガラにも、ふざけたように肩をすくめただけだった。何はともあれ、ナレーションの名乗りも違和感のないほど、現実の匂いのしない男だ。

にやにや笑って答えない男に、三人はがっくりと肩を落とし、ストーリーを進めることにした。

害なさそうだし。

・・・ないのである。

 

「へーーー、すげぇな。これが北の太守の宝物庫か。話に聞いてはいたが・・・すっげぇ量」

偉大なる大魔法使い(笑)も流石に呆れた表情になる。地下丸ごとなのだ、盗難よりは遭難の危険があるという噂はまるっきり事実だったらしい。

あれだ、ハリ○タの必要の部屋みたいなカンジ。

オーヴが比較的手前のわかりやすいところにあったのは、僥倖としかいえない。

ところでこの宝物庫、大半がガラクタなのだ。

十数年前、英雄王オスカー・フォン・ロイエンタールが魔王グラウダウザーを倒したとき、魔王城にあった不思議アイテム諸々、太守たちの城にあったよくわからないもの諸々、ファビリナ朝の貴族の屋敷にあった怪しげなオーパーツ諸々。没収したついでにまとめてこの中に放り込んだ。

魔王グラウダウザーの宝物庫もさることながら、ファビリナ朝貴族には、なぜか魔法仕掛けの危険物を蒐集するのが流行していた。絶句するほどくだらないおもちゃから、そのおもちゃに酷似した死の兵器まで。

怪しいにもホドがあるので、全部まとめて、これも古代文明の遺産であるらしい一番強固な北の太守の宝物庫に封印したのだ。毎年管財省がちょっとづつ鑑定しているが、千年かかるという噂である。

「流石に異世界の魔物が封じ込められてるのとかはなさそうだな〜」

まあ、ナレーションさんに見てわかるものは、この国の王妃だって見ればわかるので、一応あからさまに危険なのは、残らず叩き潰したあとである。多分。

というのを、自称歴史学者に解釈されて、それでもこの量に呆れる三人である。

「ファビリナ朝の貴族趣味ってサッパリわかんなーーい」

「それにしたって、この量はねーだろ・・・」

「じーちゃんのアイテム??」

「あー。ダナスじーさま、とにかく古代遺産と思われるものはかたっぱしから集めてたみたーい。だから、魔王城まるでゴミ屋敷みたいだったって噂」

「てか、その魔王城って、今のウチ・・・」

真雪の発言に、明るく大賢者が同意する。

「そだよん♪ 今じゃ、すーーっかり大国の首都ヅラしてるけど、20年前までは昼なお暗き地獄の一丁目だったんだよね〜」

「どーりで、やたらめったら怪談が多いと・・・」

ポムっ、と納得の手を打ったのは美時だ。

「・・・・・・お前らはそれに疑問を持たないのか・・・」

軽い双子に、ガラは肩を落とした。

認めたくはないが、この状況に速攻で慣れはじめている自分に気づいていた。

 

「さてーーー、お前らどーする?」

大賢者(?)に云われた三人は首をかしげた。

とりあえず、オーヴは手に入れた。ミッションはコンプリートだ。けれど?

「どうする? この城の異常、片付けてくか?」

「って、そんなアッサリ!?」

「片付くのコレ!?」

「ウソだろ!!」

「初回サービスで、超簡単な攻略法つきで教えてやるv」

「「「実は、攻略本?」」」

胡乱な顔で男を見た子供たちだが、男はアッサリした笑顔だ。

「どっちかってーと、チュートリアルバトルかな。俺がお前らに助言できるのも、多分今回かぎりだしな」

「初心者の館・・・」

「そういや、重要情報が書いてあるトリセツってあるよな」

「やっぱりあの男、ヤバいんじゃないか?」

「ガラくん、正解。でも、今回は危険はないよ?」

にっこにこの当の本人に云われて三人は顔を見合わせるが・・・

行かないという選択はない。

「じゃ、行こうか。北の太守謁見の間だ」

 

「ていっ!」

ポカッ

「おー、真雪ちゃんおーみごと! アザヤカー」

天井裏の隠し通路から太守の椅子直上に飛び出した真雪が一撃を食らわし、転がった一本の杖と、気を失った一匹の白い猫を受け止める。

「いや、まず天井裏の隠し通路知ってるトコから突っ込みたいんだけど」

「太守の館は元々昔からあるの建物だからね、古文書なんかもあるんだよ。普段は人がいて使えないから、安心しな美時」

「原因って、猫?」

あまりにもあっけない幕切れにガラも拍子抜けしている。

「ああ、その猫はタダの猫だよ。タダの猫に起動されちゃうこの杖が危ないの」

真雪から杖をうけとった男は、美時にそれを渡す。

「事象の杖。旧文明の遺産だ。じきに元の空間に戻る、持ち主の思考で起動するはずだから信頼できる大人に渡しなさい」

揺らぎはじめた空間を確かめて、男は三人に笑う。

「じゃあな、美時、真雪、ガラニーザ。また会おう!」

その一言で綺麗に消えた男に、今度こそ三人は確信する。転移なんて条件が一番難しい魔法だ。門でもないかぎり、術者数人がかりで、四半刻はかかるのが「普通」だ。

こんな暴風雨のような、揺らぐ空間で、危なげなく転移できるなんて。

「とりあえず、人間じゃないのは間違いない」

「「うん」」

表情筋が仕事してない三人の頬を、新鮮な空気が撫でる。

無事本来の時空に戻り、遠くから北の太守の声が聞こえた。

真雪の腕の中で、白い猫はもぞりと動いた。

 

「三人とも無事でよかった」

息子を抱き上げ微笑んで云う北の太守に、三人とも微妙に眼をそらした。

シャリアおじさんに心配されるようなことは、一切発生しなかったからだ。あの変な人には口止めされてるし、なんともいわく言いがたい空気が三人にただよう。

城内に残っていた人たちも何事もなく既に通常業務に戻っている。北の太守夫人の咲子はまだ微熱が残っているようで、そのまま寝ていてくれと三人が云った。

例の白猫は望の腕の中だ。

「あのねー、シロって名前にしたのーー」

平和だ。

「それじゃ、おじさん。この杖お願いします」

「わかった。考える限り安全なところで保管しよう」

「しかし、何ももう行かなくても」

あまり突っ込まれると困るから・・・なんて理由で旅立ちをいそいでいるわけではない。断じてない。

朝イチで北についたので、まだ昼前なのだ。雪道とはいえ、今から出てもすぐ隣の鉱山町にはつける。ちなみに、一旦王城に帰ろうともおもったが、既に門はふさがっていた。チッ。システム的には

『王都は魔王(パパ、てかママだろ?)に占拠された!』らしい。

困った顔をした真雪がシャリアに問いかける。

「パパとママ、大丈夫でしょうか。どのくらいでこの騒ぎが終わると思います?」

「・・・、何か考えがあってのことだと思うが・・・友人として家臣として、思いたいが・・・。ああ、多分。あの二人の性格からして、一年以上ということはないと思う」

あの二人のやることなら仕方ない。とシャリアは一つ溜息をつき、子供たちを送り出した。

「じゃあ、三人とも、気をつけて」

その微笑に笑顔で返すと、城の敷地を出るまでは歩いていたが、消化不良をもてあましたのか、誰からともなく走りだす。

その背を見送ったシャリアはいっそ感心した。

「元気ありあまってるな・・・」

ちなみに、徒歩で半日かかるはずの次の町には、おやつ時前に着いた。本当に色々有り余ってる。王都を飛び出して正解なのかもしれない。もしくは両親の親心だったのか?

「さて、この杖も預ったはいいが・・・」

古代の遺物を手にフム?と首をかしげる。が、そのまま横に渡した。

「まかせる」

「まかせて」

囚われの王妃詐欺な、この国の王妃ヤン・ウェンリーが、そこに立っていた。

この国で一番安全な保管場所は魔王の隣らしい。

「おうひさまこんにちわーー」

「はい、こんにちは。いい子だね望」

「ウェンリー、心配するくらいならもっと助けてやればいいのに」

「何いってんだい。「はじめてのおつかい」は見守っても手は出さないのがセオリーだよ」

うけとった杖をくるくる回しながら笑う、まあ、心配はしてるのだ。

「けど、この杖を回収できてよかったよ。羽鳥も喜ぶ」

「一歩間違えば大惨事、だったな」

「その意味では、運がよかったかな。にしても、猫とは。猫だったからこの程度で済んだのか、この奇想天外の変事だったのか。どっちだろ? 多分だけど、のんびり昼寝したかっただけだよ、この子?」

「・・・そういうのは、ウェンリーと羽鳥に任せる」

やや辟易したシャリアの横顔をみて、ヤンがそういえば。と声をかける。

「ガラのことは、あれでよかったのかい?」

「・・・・・・・、ダナス様が、最後の炎と名づけたのなら。あの子は我々の一族だ。・・・あの子が、どんな生き物であろうとも」

「流石に、いい勘だね」

「勘じゃない。人間じゃないのは見てわかる。それで?」

「まだ、ダーク・キャッスル(笑)の資料漁ってる途中だから、はっきりとはわからない」

「ああ、一族だといったばかりだな。俺はそれで十分だった」

フェザーン一族の最後の一人は、薄く微笑んで息子の髪を撫でた。

 

ちなみに城下

「ほうらな、太守様にまかせとけば半日でカタぁついたじゃねえか」

「まったくだ! わけわかんねぇことでも、無駄に恐がるこたぁねぇ」

北の地における彼の太守への信頼は、無駄に絶大である。

 

 

さぁて、いよいよ?本格的に??旅に出た三人!

向かうは大港、東の太守・ディヴァイン・ウォーロックが治める地。

けど、俺なんとなーーく、そこまで着かない気がするな?

次回Chaotic Party4「冒険ってこと」

ゴー・イースト!

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蛇足
前半書いたのが10年前で、後半書いたのがここ1年です。
前半およびその前、および眠らない本編をよく読み返してないので、変だったら教えてください。
ちなみに、北の太守編オチは10年前からコレでした。
眠らない街に出番のない人とか、出番のない設定を書きたくて書き始めたオハナシです。
出番のない設定が、眠らない街本編で有効かはわかりません。