ほのぼの家族2

数日後

「ねぇーえ?フェル、これなんだとおもうぅー?」
まだ舌足らずなアレクがフェリックスに問う。
「あ!こればくだんだよ!アレク。危ないからさわっちゃだめだからね?」
お兄ちゃんぶって、アレクを爆弾から離す。と、さっそくお得意の解体にとりかかった。

まーずはまーずは光学センサーのちぇっくーちぇっくー
ありませんーありませんーしんどーをあたえないよーにふたをとりましょおーとりましょおー
おはさみちょっきん 手をきらないよーぉにぃー
今日もフェリックスは自作の歌とともに爆弾を解体していく。
どうやら、父親からの注意事項を歌にして覚えているらしい。
その光景に、ちょうど入ってきたギュンター・キスリング少将は愕然となった。
普段の猫のような歩みも忘れて、猛然とフェリックスに駆け寄る。
「フェリックス!!!何をやっている!危ないから触っちゃいけない!」
「ダメ!!!!!」
幼児の強い制止に、つい職業軍人は足を止めた。
「どたばたしたらダメ!今これ出したから危ないの!キスリングさん大人なのにいけませんよ!?」
大まじめに大人を叱る。
これはこの二人が積み木遊びをするときには、かつ、護衛がキスリングでないときは、ままある微笑ましい光景で、大人たちは神妙に叱られたふりをしているのだが・・・。
今回は冗談抜きにヤバイ。
「フェリックス!そういうことは大人に任せるんだ!今爆弾処理班を呼ぶから!」
フェリックスの旋毛はこれで完全に曲がった。
こーゆーときに怒らない子供はいない。
「僕もう四つだもん!お兄ちゃんだもん!「ばくだんのかいたい」ぐらい一人でできるもん!!!」
(少なくとも私には出来ないぞ!そんなこと!!!!!)
あまりにも強く思いすぎたので、キスリングは声にして叫びそびれた。
そんなキスリングを無視して、フェリックスは手際よく爆弾を解体していく。
その顔は全神経を集中させていて、手は慎重そのもの。
みるみるうちに爆弾は解体された。

「でーっきた!」
何時の間にか到着していた爆弾処理班が思わず拍手を贈る。
それほど見事な解体処理だった。
「フェリックスすごぉーーーーい!」
尊敬に目を輝かせ、アレクがフェリックスを見る。
フェリックスは身内以外の人間の賞賛に、まんざらでもなさそうだ。
「ほぉーら!ひとりでできたでしょぉ?ごめんなさいは!?キスリングさん!」
ここで謝れるならギュンター・キスリングは大人じゃない。
彼は疲れたように笑って誤魔化した。

「フェリックス」
「あっ、おとーさん・・・!」
3歩走って父親の長い足に飛びつく。
「ごめんなさぁい、おとーさんのいないところでかいたいしないおやくそくだったのに」
「一人でできたんだろう?次からは約束を破ったらお前の工具箱と砂場セットを取り上げるからな」
「はぁーいぃ。ごめんなさい」
「報告は?」
「けがはありません!」
元気よく報告する。怪我の有無の報告は義務だった。
「それならよし。アレク様と遊んでこい」
「はぁーーーーい!」

 

 

 

「っていいわけあるかボケ!」
ロイエンタールが後姿を呑気に見送っていると、後ろからどつかれた。
「痛いじゃないか、ミッターマイヤー」
流石にムッとしてロイエンタールが親友に文句を云った。
「なんでフェリックスが爆弾の解体処理なんてできるんだ!」
君主の息子と、親友の息子を我が子のように溺愛しているミッターマイヤーが気炎を吐く。
「便利だろう?」
「たわけぇぇぇぇぇぇええええぇぇぇぇええええ!」
理由を言えといわれてロイエンタールは首をかしげた。
「あのリヒテンラーデの死に損ないが色々作ってくるんだ」
五年一緒に住んでいて、まだ名前を覚えていないロイエンタール。
つーか、生き残りならまだしも、死に損ないに格上げされてるし!
「時限式はさっさと解体しないと爆発するし、フェリックスを放っておくと机を散らかすからな。一石二鳥だろう?いや、随分と手先が器用になった上、数も覚えたから一石五鳥ぐらいか?」

ミッターマイヤーは一瞬、「こいつ殺そう」と本気で思った


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