『運命のふたり』

 

「これは本当にただの感覚なんだが」

「うん、たとえばの話だと思ってね?」

 と、2人の元帥は極々自然に寄り添い、

 凄く奇妙な話をはじめた。

 

「物語とかに、前世の記憶があるっていうの、たまにあるわよね? でも、来世の記憶って聞かないわよね?」

「いや、ないですよね?」

「次、ではないかもしれない。その次か、そのまた次あたりかもしれない。少し遠い、けれど、自分のものだという記憶・・・?」

「ちょっと違うかも、予定?」

「台本?」

「近いかな。自分達の、ノルマというか、義務というか、厄介事というか・・・」

「面倒事というか。・・・超王道のヒロイック・サーガをやらないといけないんだよ、多分な」

「そうね、めっちゃ王道のすれ違いラブストーリーね」

 茶化したヤンに、ロイエンタールが苦笑する。

「そうだな。世界の端から端まで駆けずり回ってすれ違う、王道ラブストーリーな」

 と、2人揃って頭をかかえる。

「思い出すだけで辛い」

「ストーリー長すぎるんだよ。世界も違うらしいし、寿命も違うし」

「現代の寿命3回分くらいすれ違いつづけるよね。長すぎるよ」

「たまにあえても、喋ってる間に何か事件だか事故だかが起こって、また走ってくハメになるし」

「そのまま10年ぐらい会えなかったりね。たまに子供とも死に別れるし」

「ああ、3男」

「そう、トラウマな3男」

「あいつ、死ななくてもよかったはずなのに」

「そうよね。ちょっとだけタイミングが悪かっただけなのに」

「立場的に他所の子見捨ててウチの子助けろともいえなかったしな」

「てゆーか、最終的に子供たち全員私たち2人より先に死んでるのよね?」

「1人くらい生き残ってなかったか?」

「葬式は孫とかひ孫とか玄孫とかがやってくれたはずだけど?」

「神殿に娘が1人いなかったか?」

「いたわ。めっちゃいたわ。たしか生きてたわ。忘れててゴメン、娘」

「こうして喋ってると結構覚えてるな」

「ねえ。この話題ゆっくり話したことなんかなかったしねぇ」

「てか、無茶だろう! 1人目の子供生まれる前に火竜山行って、炎王の牙ゲットとかっ!」

「え? お前そんなことしてたの? どうなったの?」

「炎王と仲良くなって、子供が産まれる祝いに貰ってきた。何回でも生えるらしいから、そんなんでいいのか不思議がられた。ついでに爪も貰ってきた。死ぬかと思った」

「・・・、確かに強力な素材ではあるけど、そういわれると微妙」

「当時はまだ、日常パートがあると思ってました」

「思ってました。今度こそ2人で暮らせるとなんど思ったか!」

「あの人生が本なら何度ぶん投げてたかわからないな。「またかよっ!」って」

「まったくだよ。もう、ちょっとほのぼのなシーンがあったと思ったら、すぐまた違う騒動に巻き込まれるし、ワンパターンにもほどがあったよ!」

「結局死ぬまで一緒に暮らせなかったな。・・・途中から薄々気づいてたけど」

「気づいてたけど。幸せな隠居生活とかなかったよね。まぁ、悪い死に方ではなかったけど」

「そうだな。せめて2人で死ねたからな・・・・って」

「「これからやるんだけど」な」

 と、また仲良く頭を抱えた。長いんだよ、マジで!

「あの、来世、なんですよね?」

「いや、多分来々世か、その次。結構先」

「そのときに死んだら、そこからはずっと一緒にいられるんだけどね〜」

「なぜですか? その次の人生にはいかないのですか?」

「いや、その王道すれ違いラブストーリーが終わったらそのあとはずっと2人だ。てか、そんな余慶がないとやってられない。もう一度云う。マジでやってられない」

 ロイエンタールがやさぐれだした。

「決まっているのですか?」

「なんか私たちの死後、壮大なヒロイック・サーガになって、ちょっといい感じに盛って伝承されて、千年後ぐらいには神殿に祀られてて、神さまになってるから、まぁそこからは神界? で世界が終わるまではずっと一緒にいられる」

「神といっても、仕事とか義務とかないから、まあ、それが老後ならぬ死後スローライフといえなくもない」

「・・・遠い上に長いですね・・・」

「「遠いのも、長いのも、相手がコレなら」」

 いい笑顔でハモってから、相手の台詞にドン引きする。仲良しだが、お互い様だ。

 ちなみに、この話を延々聞かされているのはエマイユだ。お話なら楽しいが、マジでいってるなら、ヤバイな。と内心思っている。

「あの遠さと長さが平気って、お前マジかよ」

「お前、マゾなの? あのあほみたいなストーリーが平気とか」

 もう一度云う。お互い様である。

「おとーさま、おかーさま・・・」

「つーか! そもそもねぇ! まず会えないのよ!!」

「そーそー、まず、こちらがあなたの運命の方です、とかなんとか云われてほぼ等身大の絵姿とか見せられるんだよ。フーンとか返事しながら、興味は隠せないからチラチラ見るんだけどな」

「運命だしね。そもそもまず運命って云われたんだよ。んで、婚約者がどーの、いずれ結婚がどーのと、周りのお歴々に云われるんですよ。でもね、ぜんっぜん会えないの!」

「たしか一回くらい顔見せで引き合わされたんだよ。そん時はまだ子供だったし、「運命感ねぇな」みたいな感想だったんだが」

「あー、私もーー。運命ってどのあたりが運命なんだよ。って感じだったんだけど・・・」

「「その後のすれ違いっぷりが運命だった」」

 2人してorzにならん勢いで落ち込んだ。そんなにか!

「年頃になっても、誰もなんも話を進めないのよ。焦りもしないし。ちょくちょく、暗殺とか反乱とかスタンビートとか不穏なイベントが挟まるんだけど、「運命なんだから、なんとかなりますよ、ハハハ」みたいなカンジで、寧ろ結婚させたくないのかとめっちゃ焦ったわ」

「そう、隣国だったしな。簡単に会いに行ける感じでもなかった。なにせ自分から行動しないと会うことすら出来ないから、だんだん相手が国で不遇な扱いされてるんじゃないかと不安になってきて」

「用事作って、体裁整えて、なんとか会いにいったら」

「・・・・そっから先は怒涛だったな」

「天災人災イベントアクシデント、ありとあらゆることで引き剥がされる」

「一年に一度顔が見れたらラッキーな勢いだから、そりゃあもう」

「そりゃあ、寸暇を惜しんでイチャつくよね?」

「お互いの近況話すのも惜しいくらいに時間なかったから、とりあえずイチャついた」

「その結果、子供は結構生まれたから、よかった」

「ああ。俺らその子供ともろくに暮らせてないがな」

「それなり以上の家系だと5歳くらいから親戚の家とか親しい家に養子じゃないけど、修行とか見習いとかに出すのが普通にある文化だったしね。まあその5年すらロクに過ごせてないんだけどね」

「誘拐されたり、預けたり。俺一回自分の子供だって気づかずに10年くらい育てた時があったが、それが一番長かったか。4男? それ以来子供に目印つけるようにしたからなぁ」

「ああ、あの精霊の印お前がつけてたんだ。てか、生まれたばっかの子供、極地に霊光陣習得の旅とかにいっしょに連れてくとか出来ないんですよ! 仕方ないんですよ!」

「世界を救うのも楽じゃないよな。まあ、子供たちともあんま一緒にはいられなかったし、死別もしたけど、作っといてよかったよな。子孫も増えたし、お前に会うよりは簡単に会えたし」

「んーー、ねーー。うちら全然会えなかったけど、子供たちから近況聞けたし。あとは、風の噂とか、神さまの雑談とかからしかお前の動向分からなかったしね」

「世界を、救ったのですか?」

「そんな理由でもなかったら、伴侶と子供ほったらかして、世界中かけまわらねぇよ」

「ねーー、ほんと。全力でやってもまだムリかと思ったけど、そこは運命の2人補正でなんとかなってよかったよ」

「王道のヒロイック・サーガだからな。なんとかならなきゃ、お話にはならない」

「あの、泣き虫だけど、泣いたまま立ち上がって走り出す女の子と・・・」

「冷静に見えるけど、実は熱血でちょっと短気な男の子が・・・」

「「一生をかけてすれ違う、ラブストーリー・・・」」

 一々落ち込まないと喋れないのか!

「いやだな、そのストーリー」

「そんないい方すると超悲劇っぽいよね」

「感動のフィナーレを迎えたんだけどな」

「てゆーか、しつこいけど、今から迎えるんだけどね」

「・・・あの、おとーさま、おかーさま。「今からやる予定の未来」はともかく、今生は?」

 あつく未来世(8割愚痴)を語っていた2人は、やっと目の前にいるのが、今世の自分達の娘であると思いだしたようだ。

「多分なんだが、俺たちは今生会う運命ではなかった」

「生まれも同盟と帝国だしね。見ず知らずの赤の他人として一生を終えるはずだったんだよ」

「それが、何をおもったか5歳くらいのときに、お互いの父親の悪戯で引き合わされたわけだ」

「で、会った瞬間にお互い思ったわけ「「なんでお前ここにいんだよ!!」」って。いや、思ってない。実際に云ってた」

「それなんて運命の出会い」

「「ですね」」

「まあ、なんでこんなアッサリ会えるか不思議でたまらなかったが、まぁ、会ったらイチャつくだろう?」

「未来世の話きいたあとだと、当然ですね」

「んで、家の事情で10年も一緒に暮らして、嬉しいんだけど、不安になるよね?」

「でしょうね。なると思います」

「ハイネセンで大学に行くのと、オーディンで士官学校に入るのははじめからの約束だったから」

「親どもの死で音信不通になったときはこのまま戦死かと思ったんだが」

「「生きてるしなーー」」

「お互い元帥でちょっと軍務頑張ったとか、未来世基準だと、なんもやってないも同然レベルだよ」

「世の理不尽を感じる。嬉しいがな」

「まぁ、ちょっとでもチャンスがあると思ったら、孕むでしょう? 普通」

「その普通は、お2人にしか通用しません」

 エマイユ、ちょっと両親に慣れた。おめでとう。

「運命の時は加護ガチガチで、寿命もいじくられてたから、俺たちは死ななかったが、俺ら以外は結構容赦なく死んでたしな。部下とか、戦友とか」

「子供も、乳児死亡率も高い時代で、一年もたなかったり、死産だったときもあったし」

「とにかく作っとけばだれか生き残るだろう。って世界観だったしな」

「だから、エマイユが生きててとっても嬉しい」

「にしても、もう加護もないんだし、俺たちも戦死してておかしくないんだが」

「むしろ、加護があったら今頃辺境で反乱とかあって、どっちかが行かなきゃいけなかったりして、こんな呑気に喋ってらんないよ」

「ああ、加護のせいだったのか」

「ああ、きっとそうだよね。どっかにあったんだよ、加護の反作用かなんかが」

「「あの、クソ神々め」」

「おとーさまとおかーさまは、何やって世界を救ったんですか?」

「ああ、神々を、神々の世界に押し返すために」

「俺らたちは神々が作った世界で、生きてたんだが、神々の影響・・・じゃなくて物理力が凄くてな。気まぐれで天災とか誘拐とかちょくちょく起こっててな」

「だから、神々は神々の世界で暮らしてください。って、結界を強固にするというか、直接じゃなくて、影響、ぐらいにとどめてもらうために、降臨できないようにするために頑張ってたの」

「神々は沢山いるから、勿論協力的な神々が半数? くらいいて」

「残り半数ぐらいが、過激派か過干渉派で、その残りが、どっちでもない派だったんだけど」

「そのどっちでもない派閥が一番厄介でな。そっちを先に抑えないとダメだって気づくのに50年以上かかったよな?」

「だよねーー、そっちの勢力弱めて先に降臨封じ込めたら、大分スムーズに進むようになったよね」

「神々も、色んなパターンがいるから、俺が行ったほうがよかったり、こいつが行ったほうがよかったりで」

「それが、また世界の端から端だったりするから。余計会えないんだよねーー」

「まあ、最終的に、加護つかいまくって、子孫ほぼ総動員で、儀式の地で壮大なフィナーレを迎えたわけだが」

「うんうん。頑張った」

「が、心残りなくやりきって死んだはずなんだが、俺たちは今ここで何してるんだ?」

「未練でもあったっけ? やることはやったはずなんだけどなぁ?」

「ところで、未来の思い出をつらつらと思い出していて・・・」

「まずその字面がおかしいよね? 普通未来は思い出せないはず」

「思い出してて、どうしても思い出せないことがあったんだが」

「え? なんかあった?」

「まさか、そんなことはないと思うんだが、・・・・・・・俺ら結婚式したか? というか、結婚したか?」

「え? したっしょ? 私覚えてるよ。ウエディングドレス」

「俺も覚えてる。世界樹の霊石とりにいったしな」

「・・・・・・・え? した、よね?」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

「「やってない!!?」」

 ↑搾り出した結論。

「多分、あの世界的には結婚したことになってるはずだ」

「多分、墓石にも結婚したテイで名前とか墓碑とか刻まれてるハズ」

「で?」

「っかしーなーー、やったつもりだったんだけどなー」

「俺もすっかり結婚したつもりだったんだけどな」

「しくったなー、誰か上手いこと誤魔化して結婚したことにしといてくれないかなー」

「きっと物語的には、派手に賑々しく結婚式をしたことになってるはずだ。見せ場だしな」

「なら良かった。まあそんな史実はないが。んー、だから、伝説っぽく、神秘の森深くある精霊の泉の女神のもと、2人きりで神聖なる永遠の愛を誓い・・・的な、あーあるわ。これぜったいやったことになってるわ。盛っててくれてるわ。せーふ」

「どこだよ、精霊の泉って。まぁ、それっぽいの当時は結構あったけど。まぁ2人きりなら他に目撃者もいないテイだし、どこかの吟遊詩人に感謝しとこう。せーふ」

「どうかんがえてもセーフじゃないですよね? お2人とも分かってていってますよね?」

 明後日をみて誤魔化す両親。慣れって大事。

「とりあえず、結婚が心残りだと仮定して」

「そうだね。あれの死後は夫婦神として永遠だから、やろうと思ったら過去をいじるしかないんだね・・・」

「・・・なぁ、これ結婚しなかったら来世でも会えるんじゃ?」

「ちょっと思ったけどやめとこうよ。来世が今世ほど簡単に会えるか分からないし。結婚システムがあるかもわからないし」

「あー、来世、オオカミになって雪原突っ走ってる気がする」

「それオオカミと人間だったら悲恋コースだから、今生頑張ってみようよ」

「・・・・もしかして、来世ダメだったから、さらに前世に遡ってるとか?」

「!! それか!」

「てことは、今から結婚しなかったら・・・」

「また、前世で会えるわけだ」

 

 まあ、こんくらいやれば運命って云っていいだろう!!

 

 

 あとがき

 この壮大なラブストーリーが前世だとイラっとくるけど、来世ならオッケーな自分が不思議。書いてる間、ちょーたのしーとか思ってる私はオツムが幸せ。

 剣と魔法のファンタジー世界で、ゲームの主人公のように世界を救う話です。

 ちなみに、2人はだいたい200歳手前くらいで死んでます。神々に翻弄される英雄の人生。

 多分、2人の死後はその愉快な神々と神々の世界に永住。2人一緒なら楽しいさ!

 

 これ、ロイさんとヤンさんが男女逆だったら、りほ的にちょう楽しい。

 ですが、お好みで想像してください。どっちでも大丈夫なように書いてる。ハズ。

 当然の如く、続かないよ!


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