眠らない街の歌の帰る星

 

今日も今日とてイゼルローン攻防戦。

ロイヤン的運命の交叉点で、ウチ限定で雪時ツインズの受難。

「「真面目に戦争して、ウチの両親」」

ウチ的にふざけてふざけてふざけたおすためにある攻防戦。

 

原作新書版198ページから

 ロイエンタールは麾下の艦隊をイゼルローン要塞の前面に展開させた。むろん、要塞主砲「雷神のハンマー」の射程外である。

 堂々たる布陣だ、と、ヤンは認めざるをえない。スクリーンに映し出された光点の群は、整然と、しかも厚みと奥行をもって、イゼルローンを圧している。

 たとえ陽動作戦でえあっても手ぬきはしない、ということであろう。

「ダーリンったら、すってきーー」

流石にヤンの声にも力がない。ダーリンは素敵すぎるが、自分が生き残れるかは自信がないかも。一応ハイネセンにフェザーンからの侵攻は示唆してみたが、ビュコック閣下ばかりをアテにするわけにもいかない。が、

「これって、アレだよなーー」

 

「愚者は問う…鉄壁のイゼルローンを捨て、

魔術師は何処へ往くのかと」

 

「ロイエンタール提督? それは、詩ですか?」

「いや、気にするな。思えば同盟の魔術師と直接相対するのはこれが初めてかと、少し浮かれてみただけだ」

ロイエンタールはあでやかな笑みを浮かべて、とりあえず食前酒のつもりで、派手に斉射をイゼルローンの外壁にたたきつけた。

「まあ、そう簡単に逃げさせてやるつもりもないがな」

 

パイロットスーツもそろそろ馴染んだ真雪だが、緊張で顔が真っ白だった。

『訓練と本番は違うんだぞ』

なんてありきたりな台詞を吐くつもりだったのに、コーネフとポプランはちょっと困った。

心臓から生まれてきた娘だと思ってたんだが。

「訓練でやったことの一割・・・いや、1%でも出せば死にゃあしねぇよ」

「翔ぶために生まれてきたんだろう、マユキは」

スパルタニアンを、本物の手足以上に使う少女だった。初陣を生き残ることさえできれば、ポプラン以上の天才になれると認めているコーネフだった。

「これは・・・、武者震いです」

「そんだけ云えりゃア、上等かな? コーネフさん」

「そうだな。お前さんのちゃらんぽらん極まりない初陣よりマシだな?」

がちがちに震えながらも、真雪は「え、この二人ってば専科だけじゃなく、初陣まで一緒だったんだ!」と、心のノートにしっかりとメモした。

「あれ、ところでユキちゃん。手に何もってるの?」

「カセットテープです」

同盟の誇る二大エースはきょとんと目を合わせた。ナニソレ?

実家からデータを持ち出す時は、複製できない形でしか許可されない。

勿論、この宇宙暦にテープレコーダーなど存在しないのだ。

『創☆のアクヱリオン』と書いた日本語も、勿論読めるはずがないのが大前提である。

 

「・・・・うーん、ウチの子は何してんだか・・・」

『あーーーーっはっはっはっはっはっは!』

宇宙空間に爆音が響いたらさぞ華やかだろう。そんなことを考えたくなるほどの火線の中に真雪はいた。なんつーか、トランス状態。

「メス猫カルテット・・・どちらかというと、バブルボールジェミニかな」

いや、バブルボールジェミニは古いか・・・。とヤンは苦笑する。

優美で、可憐ですらある軌跡を描き、スパルタニアンの限界駆動なんか無視してんじゃねぇかと叫びたくなるほどの運動性能を発揮している。

『死ね死ね死ね死ねーーー!』

「・・・・・育て方間違えたかなァ」

言葉通り、敵のワルキューレを次々と屠ってゆく。たまに駆逐艦を巻き込むのもたやすいようだ。

途中から見ているが、・・・さっきから一発も無駄弾を撃っていない。寒い。

司令部では、ムライとアッテンボローも青い顔をしている。凄惨だ。

『なんで、スパルタニアンは変形合体しないのぉおおおおおお!』

「またゆってる・・・」

『ついでにクーア・システムも積んでよ! なんで補給なんてしなきゃいけないわけ! ついでに20センチ砲もーーーー!』

「それは」

『それはクインビーだ! てか羽鳥小父さんに頼め!!』

「・・・おや?」

『やあああああ、今すぐうううううう!』

『ついでに、迎撃中にBGM大音量で流すのもやめろ!』

「おやあ?」

『やーーだーーーもーーーーーん!』

「・・・、提督?」

「せんぱい?」

「パパだねぇ」

「「ヤン提督!!」」

「あの子、誰と喋ってるのか、わかってんのかねぇ」

『父さん! 何、回線ジャックしてんだよ!』

「おや、割り込んだね。美時」

『何呑気に会話してんだよ! 二人ともイゼルローン回廊中に響いてますよ!』

『ならスイッチ切れよバーカ』

『あんたがバカだーーー』

 

などと非常識な笑劇を挟みながらも、ロイエンタールの洗練された戦術能力に「やってくれるじゃないか」とヤンは感嘆の声を洩らし、ロイエンタールは魔術師とうたわれるヤンの次の手を楽しげに待ち構えていた。

そんな一流の敵に対し、ヤンは二流の奇策を用意した・・・ネタとしては三流だったが。

 

「さっきの騒ぎはなんだったんだ? ミトキ」

「あーー、ウチのいもーとが。スミマセン」

「まあいい。トリスタン観光だ、いくぞ」

「はい、シェーンコップ准将」

 

というわけで。

「ロイエンタール提督?」

いいシーンなのだが、問うたシェーンコップの声がやや胡乱だった。

初めて見る敵国の勇将が、となりに立っている初陣の少年と同じ顔に見えたのだ。

「そうだ。お前らが噂のローゼンリッターか?」

「ご存知とは嬉しい限りだ・・・が」

かっこつけたいシェーンコップの声もなんとなく白ける。ロイエンタールの行動が豪胆通りこして、なんとなく抜けて見えたのだ。ヘテロクロミアの美丈夫に横向いて吹き出されたらなおさらだ。

「ばっ、薔薇の騎士団がきたっ」

「違う! 薔薇の騎士! だから笑うなっ!」

あーあ、俺ってなんでこの狭くないトリスタンでこの人引いちゃうんだろ。

これも月下数千年の因果応報!?

更衣室に着替えに来た・・・と見せかけて軽くサボっていた父親に遭遇して、美時は泣きたくなった。もーー、この戦争イヤっ!

「宇宙暦798年、帝国歴489年、『イゼルローン攻防戦』

ヤン・ウェンリー率いる第13艦隊は、イゼルローン回廊帝国側より来襲した帝国軍第一陣を迎え討ち

イゼルローン回廊にて開戦」

「あってるよ! ンなよどみなくゆってくださらんでもよろしいわ! 命令従う下っ端の身にもなれ! 笑いすぎだろ!」

「ナーイツ・オブ・ザ・ローーズ」

「歌うな!」

「や、ヤン・ウェンリー・・・恐ろしいヤツ」

「ああ、まったくだよ! 戦慄を禁じえないよなっ!」

美時が繰り出したトマホークを、体を捌いてよける。

「ちっ」

「貴様・・・何者だ?」

問うたシェーンコップにヘテロクロミアがきらめく。

「オスカー・フォン・ロイエンタールだ。だが、正体の詮議は殺したあとで充分だろう?」

ロイエンタールは、まことに憤慨すら覚える豪胆さで相対する。手には戦闘ナイフ一本。

「今日は機嫌がいい。一曲分だけ、相手してやるよ。ガキ」

ぴちょーーーーん

(ヤバイ、殺される。マジで。父親に・・・(汗))

父親は鬼神だ。これは決定事項だ。今の美時よりも幼い時分、ルーシェンからその位を奪い取り、20年以上その位にある。月下最強の戦闘能力の証。

つまり、物理的に美時より父親のほうが強いのだ。

相手がナイフ一本の軽装で、美時が装甲服でトマホークを持っていることはたいした問題ではない。軍にはいってから学んだ戦闘術と違い、美時が生まれたときから習得してきた月下伝統の武術は、むしろ軽装のほうが有利だ。

ただ、父親の得手は棍だった気がする。この更衣室でそれに類する武器を使えないのがせめてものなぐさめ・・・。

「ウチの一族伝統の得意技を教えてやる。「酒場での乱闘」だ」

「あんたなんか嫌いだ!!!」

「それでは歌います。「人生は入れ子人形」」

「アンタそれ、真面目なのタイトルだけじゃねーーかーーー!」

アップテンポの鼻歌とともに繰り出されるナイフ一手一手が死線だ。

美時は防戦一方で手も足もでない。が、根性で口だけは出した。

「不条理すぎるわっ!!!」

ご機嫌で二番まで歌ったロイエンタールが不思議そうに首を傾げる。

「しっかしわからんな。俺らの若い頃は、父親世代を叩き潰さなきゃ未来はないと思ってたもんだがな」

「ぐっ」

無意識から父親を絶対視している自覚のあった美時が言葉に詰まる。

「これだから、近ごろの若いモンはハングリー精神が足らないとか言われるんだよなぁ」

それでも父親の手はとまる気配がない。楽しげに美時を弄っていく。

が、美時だって、やられっぱなしではないのだ。並みのローゼンリッターなら瞬殺されるその一撃一撃をいなして一歩も退かない。

美時が父親に勝てないのは、実力不足ではないのだ。それこそが勝てない理由なのだが。

「っ!」

父親の、無駄がないくせに優美な舞のような動線とリズムの渦に巻き込まれるように、美時が戦いに幻惑されていく。父親の戦いがあまりにも大きすぎる音のように、美時の思考を奪う。が、その一瞬、自分の鼓動が聞こえた。それを掴もうと必死で手を伸ばし・・・。

「『人はみな、いつまでも、無力な奴隷ではない!』」

「おお、割り込んだな」

けれど、この曲を選んだのはロイのほうだった。美時は一生気づかないだろうが。

「それじゃあ戦え。未来をとりもどすため」

が、歌っていたのは、美時だけではなかった。

宇宙に鳴り渡る歌声がトリスタンのスピーカーからも流れてくる。回線をジャックされているのだ。だれに?

「ま、ゆき・・・?」

こっちの都合は一切お構いナシに、運命を歌う神のように、愛らしい声で死を撒き散らしていた。重なった一瞬は偶然。

「殺戮の天使だけじゃたらないのか、・・・」

あの馬鹿娘・・・、は、口の中だけでロイがいった台詞だ。

足りないよなぁ。といわれた真雪はなかなかハンパではない損害を帝国に与えていた。

そして、その宇宙に大迷惑を撒き散らす選曲もなかなかハンパではなかった。

「なんで、そこから「マジで恋する5秒前」に行くか!」

流石の父親も全力でつっこんだ。

ナイ、それはナイよ真雪。

踊るように軽やかな声で、戦意高揚すんのか撃沈すんのかわけがわからない。聞くものすべてを巻き込むような歌声。

天翔ける歌声に、美時は大空を飛ぶスパルタニアンを思う。

イゼルローンのカラオケクイーン・真雪はカラオケが好きで、盛り上げるのも、人をのせるのもうまい。が、真雪はカラオケ部長から動こうとしない。半ば神格化された母親が怖いのだ。母親が恐ろしいのではない。母親の伝説に竦むのだ。

「雪、まだ飛んでるんだ・・・」

“きっと、俺らの中じゃ、ユキが最後まで飛んでるんだろうな・・・”

そういっていた空戦の友人を思い出す。彼はまだ飛んでいるだろうか。

「歌う悪魔か、あの娘は・・・」

「アンタひとの妹にナニいってくれちゃってんの」

「化け物かもな。先祖がえりの」

ロイエンタールだって、柏初代より「前」の祖先はしらない。だが、たまに、歴史の暁闇からうそ寒い眼差しを感じるのだ。

それは元々ロイエンタールが月下一族ではないから気づいたものかもしれない。

あれが、月下の血に潜められた化け物なら・・・。

円運動を繰り返しながら迷いなく敵につっこんでいく姿。

躊躇いなく敵を屠る。それもまた、一族の姿なら。

「うーーわーーー。雪ちゃん。これウチの連中に聞かせたらダメな歌だって」

次に流れてきた澄んだ歌声は、真雪たち空戦がRRといったカラオケの中で、RR隊員たちの絶大な支持を受けた歌。

冒頭でヤンとロイがそらんじていた楽曲。

「英雄は不在じゃないよ、ゆき〜」

そして、歌っているのは真雪だけではなかった。

何かを強烈に破壊する音とともに、猛々しく伸びやかなテノールが耳をうった。

“ナーーイツ・オブ・ザ・ローズ!”

「リンツ隊長?」

まだ遠い声だったが、戦闘の合間に確かに聞こえた。

ちなみに、リンツをはじめ、ローゼンリッターは、この部分だけ公用語なのでわかるが、この部分以外の歌詞は覚えていないので、うにゃにゃうーーで歌っている。

簡単に訳してもらった歌の歌詞は、ひじょーにローゼンリッター好みだった。

「リンツ隊長ったら、声がステキーー」

ローゼンリッター第14代隊長は絵も歌も上手い。

「ウチの一族ってば、ドラクエでの職業は絶対遊び人だよね」

「遊び人舐めるな。極めなきゃ賢者への道は開かれないぞ」

↑正論かもしれないが、基本ゲーム脳のロイ。

FFだと吟遊詩人ですね。装備弱いけど、歌ってるあいだ全体回復とか色々。

ちなみに、この歌の効果はカスパー・リンツのバーサーカーで攻撃力アップ。いいんだよ、この一族、装備弱くても戦えるから。だいたい、悪路を踏み越えて旅ができなきゃ吟遊詩人じゃないじゃん。

ついでに、パーツィバルといえばミュラーの旗艦だが、ミュラーがパーツィバルを手に入れるのは、新帝国になってからで、さらにミュラーが旗艦を手に入れるのはラグナロクで旗艦を三回も乗り換えてラインハルトを守ったからで、

つまり、フェザーンも落ちるまえの今の段階ではミュラーは鉄壁ミュラーですらない。

「さて、子ども。名前を聞いておこうか?」

かちん

「ゲーフェンバウアーだ!」

何気にキレた美時はトマホークぶんなげた。

が、それがかすったとはいえ、ロイの頬から血が飛んだのは、どっちにとっても予想外だった。

「っ」

「あ、あたった・・・」

「ぷっ」

ははは、あーーーーっはっはは

「な、なんで爆笑されんの」

「やるなぁ、ゲーフェンバウアー? ああ、そこのアンタの名前は?」

「ワルター・フォン・シェーンコップだ」

「その名前ならしってる。なぁ、間男」

「誰が間男だ!」

「あんたの都合よく物語を面白おかしくするんじゃない! シェーンコップ中将はウチの司令部で唯一母さんの毒牙にかかってないと断言できる貴重な男なんだぞ!」

「シェーンコップ、実は俺には15,6になる息子がいるんだが」

「聞けよ! そして息子の年ぐらい覚えとけ!」

「その息子がまたスクスク大きくなりやがって、生意気にも俺をこえていく日がくるかと思ったら・・・」

ヘテロクロミアが、本当に楽しげにきらめく。

「楽しくてたまらない。予想以上になあ」

「なっ」

「身長抜かされたりしたら、すげぇ楽しいんだろうなぁ。楽しみで仕方ない」

悪魔のようにクスクスと笑う声が、暗すぎて笑えない。

「おまえたちは、一体なにを云ってるんだ? 何をやってるんだ?」

愕然とした上司の声に、逆に美時の頭が冷える。よかった。戻った。

「なにって、戦争ですよ? このエロい顔で笑ってるの、敵の司令官じゃないですか」

「ダレがエロいだ、コラ。とりあえず、今の目標は同盟の魔術師の首ってトコか?」

「アンタ、楽しみでたまらないって顔すんなよな。そんなに殺したいか」

「当たり前だ。何のためにこっちにきたと思ってる。他の男に盗られてたまるものかよ」

「女神様に呪われて死ねよ」

「女神の呪いと祝福は、万物に対し平等だ。いずれ俺も死ぬ」

「なにその恥ずかしい設定。自分のこといくつだと思ってるの」

「馬鹿め、帝国軍は毎日がリアルサンホラだぞ」

「生かしちゃおけねーな、帝国軍・・・俺の楽しい二次元生活が三次元に脅かされる」

「お前たちは、あなたたちは、自分が何をやってるのか、わかっているのか? なんのために? あんたたちにとって、この戦争は、その程度かっ!」

シェーンコップの目に、同盟市民としての義憤を確かにみた二人は、まったく同じ温度をした目でこの亡命者をみた。月下一族の温度で。

「人類は、この宇宙世紀になっても戦争を続けている。そこで、ウチの一族は一つの結論をつけた」

ロイエンタールが語る。

「人間は、戦争が好きなんだ。我が一族は、結果がどうであれ、その理由が「好きだから」であるものを、否定することはない。決して」

「好きで戦争をやってると・・・・!」

「思ってる」

無下に切り捨てたロイエンタールがニヤリと笑う。

「俺は楽しいぞ。お前は違うのか?」

「とりあえず、俺的には、敵の司令官は悪魔だってわかった」

「悪いが、さっきもいったように、俺には息子がいる。その息子もなかなかのものだと思うぞ」

「俺の父親は鬼だけど、息子のモットーはらぶあんどぴーすなんで」

「いつだったか忘れたが、俺の息子もそう云ってたな。わかりあえんものだ」

↑たった今だ。

が、呑気に喋っているうちにも戦況は時々刻々と変化しているのである。

 

『おーーーーーっほっほっほ、いくわよ、ジョゼフィーヌ!』

「「じょぜふぃーーぬ!!?」」

美時とパパの声がハモった。

まったく同じ表情でキョドる。

↑月下一族トラウマソング。美時もパパも、14になるまで死ぬほどやった。

『さあ、跪きなさい』

「ウチの嫁の青筋が見える・・・」

 

「さすがに、やりすぎたようだね、真雪」

司令官に戦々恐々していた司令部が、スラリと立ち上がった司令官にビクリと肩をふるわせる。

「ジョゼフィーヌはだめだろ。ジョゼフィーヌは」

くるうり

嫣然とした笑みをむけられて、思わずフレデリカは悲鳴をこらえた。怖い。

「グリーンヒル大尉? 悪いのだけれど、ネット界のどこかから「愛・おぼえていますか」っていう曲さがして、うちの愛娘に叩きつけてくれないかな?」

「ひっ、はい?」

「娘もそれで頭が冷えて補給してくれるだろう。悪いねぇ。フェザーン界隈でみつかると思うから。わたしはすこし席をはずすから。20分ほどで戻ってくるからねえ」

 

『ッキャーーーーーーーーーーーーーァ! やめてやめてやめてやめてーーー』

「「!!!!」」

「母さん、鬼か!」

「なんつームゴイことを。頭から硫酸ぶっかけるようなモンだろーが」

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、たすけてママ!』

「せめて「蛍の光」にしてやれよ・・・」

「ダメ、それ。俺も帰っちゃうから」

『あ、あれ? 雪何してた? パパぁ、時ちゃん。何があった? なんか、頭っから硫酸かぶった様な衝撃をうけて、体がヒリヒリするんだけど・・・』

「「・・・・・・・・・・・」」

もうこの時点では音声リンクしてません。

けれど父と息子は聞かなかったフリをして声をたてませんでした。ママが怖いから。

 

ふふふ

「おしおきだよv 真雪」

そして誘拐される赤いくまのぬいぐるみ。

歴史はまだその終焉をみせない。

 

おまけ

「えーーと、本当に雪・・・じゃなくて小官そんなことしました?」

借りてきた猫のように、ちーーーんまりと肩をおとして空戦隊長二人相手にスーパー説教タイムな真雪がおそるおそる問うた。

ので、コーネフとポプランはでっかい溜息をついて雪よりも肩を落とした。

「本当に、なんにも覚えてないのかよ・・・マユキ」

「あの・・・えっと、戦闘中は本当に夢中で・・・」

「初陣で、戦果もあって、生きて帰ってきた。褒めてやりたいところなんだがな・・・」

「はあ・・・」

「確かになぁ、コーネフ。マユキのおかげで帰ってきた連中も多かったけど」

「コーネフ隊長。小官一体敵機どれだけ落としたんですか?」

「58機だ」

「・・・うわぁ。じゃああと42機落とせばエースですね」

「そういうことだ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え? 冗談じゃなくてですか?」

「ユキーーー。ついでに駆逐艦も三隻落としてる」

「はい? 一体何をやればそんなに落ちるんですか。まさか雪体当たりとかしてませんよね。クインビーじゃあるまいし」

クインビーってナニ。←あかいひこうき

「というか、マユキ。君が流したんじゃないのか? あの大音量の歌は」

「えええ、雪しりませんよぅ。カセットテープは一本持ってきましたけど、うぉーくまん(ばーい・そにー)だし。よその回線ぶんどって流すなんてアニメじゃあるまいし」

ブンブンブン

「すいません、ポプラン隊長〜〜〜!!!」

全力で走ってきた風采のあがらない少年が飛び込むように土下座したのはそのときだ。

「やったの俺なんです! マユキはゼンゼンしらなくて」

「せ、セイネちゃん?」

セイネちゃんは真雪の空戦の同期で、スパルタニアンオタクのメカオタクで空戦にきたメガネの少年だ。

反射神経はあんまりよくない。

「俺、絶対初陣で落ちると思ったんで、俺らの同期じゃユキが最後まで飛んでるはずだと思ったから、最後にユキが飛んでるのがわかればそれでいいかって・・・」

でも、それが全方位に無差別発信されてしまって、流れてきた歌が、そりゃあもうトンでもないアレだったので、うっかり死にもできずに青くなって帰ってきてしまったのだ。

「セイネ〜〜〜!!」

「ごめんなさいーーー、たいちょーーー」

今は怒らなきゃいけないとわかっているが、呆れて怒る気もない。

でも、この歌聴いて、雪と同期の初陣たちの半数が生きて帰ってきた。

「ごめんなさいーー、もうしませんーーー!」

やらなかった。

セイネはやらなかった。

けれど、このあと、雪のスカルワンだのデスサイズだのブラックレディだのさんざんころころ愛称をかえまくった愛機の名前がジョゼフィーヌで決定されたのと、これ以降の戦場で雪の歌う悪魔が名物になったのは、

決して雪のせいではない。

 

「眠らない街のいつか帰る場所」に続く


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