”世界”はキミを愛してる!
私は、ディヤーナ・アンダーソン、ちょびっと地味めなハイネセン記念大学総合社会学科二年生です。
もう一度云います。私の名前はディヤーナ。決してダイアナではないです。よく間違えられる。
そしてここは、大学の近くにある常連の喫茶店。ちょっと雰囲気が良くて、ちょっと値段が良いので大学の近くなのに適度に静かで、のんびりできる素敵なお店だ。
私のオーダーは本日のケーキセット。シンプルだけど紅茶に良く合うケーキのお味もなかなかに素敵。
ボックス席の私の目の前には、クリームソーダが似合うちょっとかっこかわいい系の三つ年下の幼なじみ、シズくん。こうみえてバンド少年・・・もうそろそろ少年は卒業でもいいのかな?
私の右隣にいるブラックコーヒーの彼がシズくんの兄で、私の真・幼なじみのルイくん。
ずっと同じクラスという幼なじみの面目躍如な彼だけど、地味な私と違って、昔からずっとクラスの中心でお調子者担当。いつも五月蝿いくらい賑やかなのに、面倒見のいい気配りの人なので昔からたいそうおモテになった。
大学あがるまではスポーツ得意なだけでモテるよね。え、顔? イケメンなんじゃないかな? 見飽きたからよくわからない。けれど今まで仲良くやってきて。この二人とは兄弟みたいな気分だ。
そして、私の左となりで椅子引きずってきて座ってる彼が、私たち三人を呼び出した人。
この人は多分、どれだけ見ても見飽きない真のイケメン。大学の入試が終わってホッとしてたら、マブダチになってたルイくんに紹介された、クレイマーくん。
あの、私入試受けてたんだけど、キミらなにしてたの? 入試受けてたんだよねえ? ねぇ?と内心首をかしげたのは内緒だ。
この店の住み込みのアルバイトで、今も制服姿。いつも思うんだけどシャツにチェックのベストにアームバンドって狙いすぎじゃない?そのうちモノクルとかつけだしそう。 ものすっごく似合うからいいんだけど。
あ、けど資料整理のアルバイトの時のカーディガンに眼鏡って地味なかっこうも似合ってて、思わず転げまわりそうになった!
この、今、ちょっと困った顔をしているイケメンが、私の好きな人だ。
「さて、ミナサマ。集まっていただいたのはホカでもアリマセン」
あんまり深刻なことじゃなさそ。よかった。
「あ、そろそろ学祭の季節ですよね? 今年も乱入バンドやるんですか?」
クリームソーダのストローを齧りながらシズくんが明るく訊く。キミは小悪魔系なんじゃないかと私は少し心配です。
は、さておき。
うん、乱入だった。飛び入りじゃなくて。ステージのバンドコンテスト蹴散らして乱入した。とても楽しかった。
「その予定は無かったんだけど、実行委員会から俺ら四人に出演依頼がきた」
どうしよう。と云ったクレイマーくんに、私は、はふっと息をはいた。
「そりゃあ、そうなるよね。特にクレイマーくんは」
会場中スタンディングオベーションで・・・じゃなかった、元々立ち見オンリーだった・・・やりきって至極満足爽快だった私たちとは裏腹に、アンコールの声はいつまでもなりやまなかった。けど、突貫バンドだからもう曲用意してないよ。
ステージ脇で汗を拭きながら、困った顔で頭をかいていたクレイマーくんが、「ちょっといってくる」と云って、そのへんにあった白いシーツみたいなものをバサっと被って・・・
「・・・っ」
かぶった瞬間バケた。美女、だった。あごと口元しかみえないのに、その立ち姿は美女そのものだった。正面で見ていた私は絶句してしまった。
何かがはじまる予感に体がふるえた。
「美女」がステージの真ん中にたつと、漣のようにあたりが静まって、そして・・・
人の歌声に涙したのははじめてだった。
知らない言語の知らない歌だったけど、胸が痛くなる切ない恋の歌だと思った。
何より声が凄かった。体のどこから声出してるんだろう。その口から声が出ているというより、体全体から、声が響きこぼれていくような。
マイクなしのアカペラで、けれど会場の隅々まで染みとおる声だったという。
私は、耳が痛くなるような綺麗な声に、屋内の会場の上に星が見えた。・・・・・気がした。
うん、もちろんだ。
回想に満足して、一つ頷く。もう一度見れるなら、自分だって見たいくらいだ。
実行委員ぐっじょぶ。
「いいんじゃないですかー、今からだと去年よりもれんしゅーじかんとれますしー」
うんうん頷いてたら、いつの間にか出演が決まっていたらしい。
「おっけー、そんじゃ、ルイの猛特訓ってことでー」
幸い私もピアノ歴のおかげで楽譜があれば、弾くのは難しくない。とりたてて上手いわけでもないけど、うん、普通。
クレイマーくんのボーカルが勝手に神がかっていたのはおいておくとして、シズくんのドラムもガチでやってるだけあって、私にはプロの演奏と聞き分けがつかない。
「ぐ・・・・くっ、やろう」
私たち四人で、一番負担がかかるのがルイくんだ。彼は昔から学祭限定ギタリストだった。去年のやつも、主にノリでやりきってわりとめちゃくちゃだったと思う。楽しかった。
どうにかなったのは、主にシズくんのドラムのおかげじゃないかな? ちなみにベースはいないので、私の左手さん担当。
去年の演奏聞いて、やる気出したらしい。さすがルイくんだ。
アレ聞いたくせに出さなかったら、幼なじみやめてたかもしれない。
「つーーわけで、マーーマーーー! 俺のかっこいいステージみにきてね☆」
「はぁん? それマジで云ってるの? バカなの?」
クレイマーくんがカウンターに向けてウィンクを飛ばす。あ、イケメン。・・・ちょっと切なくなった。
うん。カウンターにいるヒトの反応もそれはそれでアレだけど。
と思っているうちに、やる演目は新旧の有名どころに決定していた。うん、間違いのない選曲だ。いつ決まったの?
オリジナル? 突貫バンドにそんなものありませんよ?
え? 私がテンポがのろい? 自覚はあります。けれど、それも許容されるこのメンツが居心地いいのです。
あれ? クレイマーくんとシズくんがなんかサプライズ企画してます? 私仲間はずれですか?
く、な、泣かないもん。そりゃ、相談されてもコメントできるほど音楽やりこんでないんですけどね!
「はぁ、ディーナ。このバカどもに無理につきあってない? いやならいいなさいよ? どうにかしてあげるから」
呆れた声が、少しだけ優しくなる。カウンターにいたのはこの喫茶店の女主人のアリスさんだ。
アリスさんはクレイマーくんがハイネセンに来てから、ずいぶん印象が変わった。
ちょっと恐くなったけど、その分気さくに話してくれるようになった。前はもっと、表情が変わらないっていうか、なんというか、孤高、な感じの人だった。
「ううん、アリスさん。クレイマーくんほんとかっこよかったですから、出来たら見に来てくれると嬉しいです」
心配してもらえて嬉しい。けれどにっこり笑って否定しておく。私はあくまで、「地味め」であって、引っ込み思案とか、遊ぶのがキライとかって属性はもってないんです。
「かっこいい? 俺かっこよかった??」
あ、学芸会の出来不安な息子のお母さんになった気分。ちょっと可愛い。
「うん、かっこよかったよ。今年も楽しみ」
「やったよ、アリス! 俺かっこいいってさ!」
きゃーって顔ではしゃぐクレイマーくんを、上から下まで眺め回してアリスさんは大きく溜息。
「ねぇディーナ。こいつって本当にかっこいいの? アタシたまにサルにしか見えないんだけど」
・・・・・・、口も悪くなった気がする。けど、ねえ?
云われて、改めてクレイマーくんの顔をちょろっと見あげる。うん、イケメン、よねえ?
「でぃ、でぃやーなサン?」
あ、じろじろ見てたら失礼だった? ゴメンね。
「うん、かっこいいと思うよ」
「きいた、ルイちゃん! 俺かっこいいって!」
「わりぃ、トリスタン。今の浮かれっぷりは、どうしてもイケメンに見えない」
「いいもん、俺がんばるし!」
うん、バンド一緒にがんばろうねぇ。
「アリスさん、よかったら来てくださいね」
「そうねぇ、ディーナがそんなにお勧めしてくれるんだったら、ちょっと覗きにいこうかしら? どうせ学祭の日は店はヒマだしねぇ」
「ハッ、これがツンデレ!」
「あぁん?」
胸に手を当てたクレイマーくんに、切なげに問いかけられた。
「ディヤーナさん、俺なんだか胸がどきどきするんだけど、もしかしてこれがトキメキ?」
「あの、多分だけど、身の危険的なのでドキドキじゃないかな?」
なんでアリスさん視線だけで殺気とばせるんだろう? すごい美人さんなのに。前歴を聞くのが恐いな。極道さんだったり・・・くぐった修羅場は数知れずだったら、どうしよう・・・。
毎日楽しいんだけど、ちょっと切ないなぁ。
クレイマーくんてやっぱりアリスさんが好きなんだろうなぁ。いつもふざけてるけど、目がすっごく優しいんだもん。
年はちょっと離れてるけど、クレイマーくんくらいスケール大きいと、そんなの関係ないんだろうなー。
あーあ、やっぱり泣きそう。
前に見ちゃったんだよねぇ、クレイマーくんとアリスさん。
「俺はアンタに優しくして欲しいわけじゃない、愛がほしいんだ! アンタは俺を愛せば幸せになれるんだよっ!」
見つからないうちに慌ててこっそり逃げたけど、クレイマーくんて、あんな必死な顔もするんだな。あーん、美男美女ーー。
うーん、胸がちくちくするなーー。
あれ? でもちょっと楽しい? 実らぬ恋にどきどきしてるのが? うん。ふふふ、ちょっと楽しい。恋してます、って感じ。
クレイマーくんにはちょっと申し訳ないから、恋人どうしなんて想像できないけど、片思いも、悪くないねぇ。
あれ? ところで、学祭のステージ成功したら、もしかして来年もやるのかな?
ディヤーナさんは自称地味系ですが、実際はしっとり系美女です。マイナスイオンとか飛ばしてます。中身はわりと無邪気。
彼女とルイの母校ではキャサリンとか、エリザベスみたいな名前の女子がモテたのですよ。きっと。
この話、当然のように、他者目線でみるとまったく違うオハナシになります。
とりあえず、学校のみんなは、トリスタンとディヤーナのことを、美男美女のお似合いカップルだと思ってます。
なんか、トリスタン第二部この一話でいいんじゃないかって気がしてきた。他視点いる?
トリスタンはこんなかんじで青春をエンジョイしてます。
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