眠らない街のちょっと張り切る日
 
「らんたったー、るんたったーー」
ユリアンと仲良しな真雪は、たまには二人で繁華街を歩くこともあります。
↑てゆか、たまたま買い物がかぶっただけ。
とんとん、軽やかに前をあるく真雪が、不意にショーウィンドウの前で足をとめました。
「あ、・・・」
「どぅかした? ユキちゃん」
「ん? ん〜、可愛いね、この服」
「え? ああ、そうだね。可愛いね」
お人形のドレスのようにレースとフリルがいっぱいな服は確かに可愛いですが・・・
「ユキちゃんこういうの好きだっけ?」
「ううん、わたしの趣味じゃないけど・・・」
けれど真雪はショーウィンドウにべたりと張り付いて値札をにらんでいます。
「えっ、てか、買うの!?」
「ん? むーーー」
半月分の給料に相当する金額相手なのに真雪は真顔です。
「これだけじゃないよ。靴もかばんもアクセサリーもこれでそろえようとすると、3ヶ月分くらいのお給料になる。だってユキこれに合うようなのもってないんだもん」
なんでそんな高いもの!!
けれど、よそいきではないのです。そういえばこんな格好をしている人をみたことがありましたから、これは多分普段着のはずです。
慎ましやかな経済観念のユリアンには驚天動地です。
けれどちょっと考えて見ます。このドレスすれすれの洋服をきた真雪は・・・
 
たいへん可愛らしい。
グッ
 
ちょっと煩悩に負けてしまったユリアンですが、まぁ、もともと真雪はたいへん可愛らしいのです。実は。
「ねえ、ユリくん。わたし実はお裁縫、そんなキライじゃないんだ」
ウィンドウをみたまま、真雪がポソリと呟く。
「この服はちょっと・・・布が多いけど、一週間あれば似たようなの作れると思う」
「あ、ああ、そうなんだ」
ユリアンがほっとしたのもつかの間。
「でも買う。ちょっとお兄ちゃんに相談してみよう、っとぉ」
「え、えええええ! トキぃーーーー!」
若干座った瞳の真雪に、あせりまくるユリアンでした。
 
 
(い、いや似合うけど、似合うと思うけどーーー)
「あーーん? どうしたんだよユリアン」
「え、はっはい! 似合うと思いますっ!」
驚いた拍子に思わず宣言してしまったら、声をかけてきたポプランとコーネフに怪訝な顔をされた。
「どうしたんだい、ミンツくん?」
「え、えっと、何気にショックだったもので・・・」
なんとなく、自分と同じだろうと思っていた友人の突然の行動に驚いたと。
詳しくハナシをきいたポプランとコーネフは目をみかわす。
面白そうにポプランの緑の瞳がきらめいたが、コーネフの薄い青の瞳が冷静にとめたので、しかたなく、一般的な、『それが人付き合いの妙というもので、それにより人間としての幅が広がる』などという教条的なまっとうなセリフを吐こうとして、
その話題の双子のもう片方が通りかかった。
「え? だってもう買っちゃったし」
ヘロっと云った美時にユリアンのあごがはずれそうになる。
けれど美時は気づいた風もなく、嬉しそうに笑った。
「ユリアンも雪があれ似合うと思ったんだろ? 似合うと思うだろ? 雪って可愛いよなぁ」
バカ兄・・・
一瞬脳裏にその単語が掠めたが、真雪が云うにはこれで彼女がいるらしい。
ヲイ
「別に俺が買ったわけじゃねえよ」
んじゃあ誰が、と、ほとんど孤児で育ったユリアンには思いつかないこと。
若干、真雪と同じ据わった瞳で、ポソリと美時が呟くことには。
「母さんの実家もだけど・・・、父さんだって、結構金持ちなんだぜ」
まるでそれが、自慢ではないかのように。
 
 
「ん〜、着道楽なのは、家系だからなあ」
双子云々は置いておいて、
提督だったら衣料にどれくらいお金をかけますか?
とのユリアンの質問に返ってきたヤンの答え。
「食べ物より、服に金かけるのは血筋だなあ」
いくらでも。というのがヤンの答えだった。
はて? ヤンはそんな衣装に気を配っていただろうか?
だらしがない。とまではいかないが、着れればいい。に近かったのではないか?
「どっちかっていうと、わたしの場合、『着飾らせたい』が正解かな? 自分より、目の前の相手の服のほうが見れるからね」
ある意味お洒落好きには言語道断なセリフかもしれない。
「うーーん、ウチの父親がさぁ、すごい着道楽でねえ。わたしにも母親にも、まぁ、結構なモンだったんだけど。着飾ることが好きな人でねえ。まあ似合ったんだけど」
稼ぎもあったし、宇宙船ぐらしが多かったから、自重しないってのもあったけど。
「本家の連中も、まぁ、基本、地味ではなかったな。大観園の女官さんたちのお仕着せなんか、街中の女の子のアコガレみたいもんだったし」
一部理解できない単語が混ざった。女官?
「ん、だから、どんな高い服でも、不思議って思うことは・・・まずないね。わたしの感覚は」
別に君に強制するわけじゃないよ。
「そう、ですよね」
金銭感覚なんて、人それぞれだ。ちょっと、双子が遠い人に感じられ・・・
「んで、あの双子がなんかしたかい?」
「へっ!?」
「ああ、違った? あの子らがまたなんかしたのかと」
「え、えっと」
「別居中」の「ご主人」について、問いかけてもいいものか?
双子相手ならいい。けれど、まっとうな大人であるヤン提督には・・・。
と、そのヤン提督が手元のカレンダーを見て、何かに気づいたようだ。
「ああ、今日って・・・。いやまさか、関係ないよね・・・ん、いや、んーーーー」
 
 
ヤンの疑問が氷解したのは、夕方の繁華街でのこと。
「あれ? あそこにいるのって、もしかして・・・」
「え? あ、・・・ああああああ!?」
めずらしいヤンの驚いた声に、
仲良くラブラブデートvvvという雰囲気の二人が振り向く。
「「あ、お母さん」」
普段なら、美時を置き去りにして真っ先に駆けてくる真雪が、美時を引っ張りながらも、仲良く、手を繋いだまま走りよってきた。
この間見ていた、うっかり「布のかたまり?」と問いたくなるような服に身をつつんだ真雪は、衣装の効果は凄いもので、普段の、活発な、とか、元気な、とか、いう形容とは離れ、驚いたことにたいそう愛らしかった。
「なにしてんの? ユキちゃん、ミトキ・・・」
ユリアンが思わずあっけにとられた口調になったのは、ほとんど軍服しか見ない二人が、なんとも華やかな格好だったことだ。服でこれだけかわるのか・・・。
真雪のドレスもどきに合わせて、美時も・・・ファッショナブルなんだろうが、ユリアンの目には多少、過剰装飾に見える衣装を着こなしていた。てか、似合う。
そして、ヤンは納得したように、
「なんだお前たち、まさか毎年やってるのかい?」
「うん、毎年ー」
はにかんだように微笑む雪は、間違いなくかわいい。美時がたまにデレデレしてるのは仕方ない。
けど、いつもの不適な笑みも間違いなくかわいい。
↑最近美時に毒されてきているユリアンの感想。
「毎年、この日は、めかしこんでデート。って俺らルールなんだ」
笑顔の美時にユリアンが問いかける。
「わざわざそんな趣味じゃないカッコして?」
「別に俺は趣味じゃない・・・ってわけじゃないけど」
「驚いたよ、美時。まるでパパとママがデートしてるみたいだった」
「う・・・、ちげーよ。たまには真雪といちゃつかないと俺のアイデンティティが崩壊の危機に・・・」
「ほんと、ママ!? パパとママみたいに見えた!?」
世界中のプレゼントをもらったような笑顔で真雪が問う。
(そうか、ユキちゃんてほんと可愛かったんだ・・・)
「なっつかしいなぁ、よく着せられたよ。ニーハイ。藤波のバカに」
「あのね、パパとママみたいな格好でデートすると、街のみんなが喜ぶんだ」
ニコニコと真雪がユリアンに云う。
「たまには・・・、年に一度くらいは、両親のコスプレも悪くないだろ」
「それって、わざわざ今日かい?」
からかうようなヤンの指摘に、
さっきから、母と目を合わせないようにしていた美時が、明後日見たまま応える。
「だって、今日なんだろ・・・」
「ママ覚えてる? パパは覚えてるよ」
そんな息子と、かすかな期待を抑えられない娘に、ヤンの、藍色の瞳がまるで優しさの源泉であるかのように暖かくなった。
そのまま、着飾った双子の頭を撫でて、だまって両腕に抱きしめた。
「・・・・・・覚えてるよ。お前たちは本当にいい子だ」
「別に、本当に街の連中がテンションあがりまくるから、だから、毎年で、俺も毎年やらないと変な気分になるってだけだし」
「雪は普段着ない格好が楽しいからやってるの〜〜。えへへ〜ママいい匂い〜」
遠くにいる両親が、恋しくてたまらなかった子供のころ。
たまたま近所の人が「初めて会ったころのお二人を思い出しますな」といっていたのがはじまり。
両親が恋しいのは、今でもいっこうに変わらないけれど。でも別にそれだけってわけじゃない。
ああ、あと父親が、毎年送りつけられる軽く詐欺?と疑いたくなる請求書をだまって払ってくれると、今年も大丈夫。と安心してしまう。
なんとなく、父が母へと贈っているつもりなのだと、わかってしまうし。
だから双子は絶対に自分たちでは買わないし、他の誰にも払わせない。
「銀婚式かぁ・・・、もうそんな経ったんだね。今でも覚えてるよ。あんなに楽しい日はそうそうなかった」
かみ締めるようにヤンが云う。今日、まさにこの日だ。6月11日。
双子の父親と初めて出会った。
そして、それから「楽しい日」が日常になった。
「楽しかったよ、「結婚式」は。まさか25年もおままごとやり続けるとは思わなかったけどね」
 
真雪と美時にとっては、6月11日は、両親の結婚記念日だった。
両親にとっても、未だにそうであることを、双子はまだ知らない。
 
 
「あの、てーか、ヤン提督。これ普段着だったんですか?」
恐る恐る聞いたのはユリアン。
「えーー、だってママの昔の写真にコレあったよ?」
「普段着までは行かないけど、一週間に一回くらいは着てたかぁ。パパがそんな好きじゃなかったから。あんまり着なかったな」
「てか、パパが好きなママの格好ってどんな?」
「好きな? キライな格好ならわかるんだけど。とりあえず全裸は趣味じゃなかったな」
「ママ、それ聞いてない」
「けど、下着はつけてないほうが好きだったかな? 素肌ちょくで着物とか。ああ、でも服の下にガーターだけとかって好きだったかも」
「母さん。息子的にその情報かなりいらない!」
「パパは、アレが嫌いだったよなあ。十二単。知ってるかい? あれ、紐一本で着てるから、それ抜いたら全部脱げるんだよ」
「提督、ジュウニヒトエ着たんですか?」
↑こないだ坊主めくりやったので、ジュウニヒトエはわかる。
「着たとも☆ フェザーン人なめちゃいけないよ」
しみじみという。
「脱がせ易すぎてパパには不評だったけど」
「てか、全部そっちの話題のみかよ!!」
「てか、パパってヘンタイ!?」
「心配おしでないよ、真雪。男はみんな変態だから」
「ママ! そこはオオカミだっていうトコだよ!!!」
「あそ、んじゃ変態の狼なんだろ」
「軽くトラウマになるからやめてママ! 雪のなけなしのオトメゴコロが砕け散るから!!」

 

続かない☆

結婚記念日です。6月11日。
ぶっちゃけ原作ではハイネセンにクーデターの鎮圧にいってるときですが、
そんなことは気にしちゃいけません☆
まゆきがきてるふくは、べいびーざすたーずしゃいんぶらいとみたいかんじ
↑なんでもひらがなで書けば許されると思ってる。
ちなみに、ヤンの趣味でもロイの趣味でも真雪の趣味でもない。
しいて言うなら、彼女にソレが似合わない美時の趣味。
あと、間違いなく真沙輝の趣味。


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