眠らない街の夢の欠片たち
 
――皆さんこんにちは、ダスティ・アッテンボローです。本日は皆さんの熱いご要望により、知られざる柏兄妹の生態に迫ってみましょう。
 
         アルテマウェポン限界点突破記念!
           柏兄妹 突撃インタビュー!
 
――柏真雪ちゃんに質問です。「趣味は?」
「趣味?えーと、私の趣味はぁ・・・・」
 
「つまんない!」
今日も元気な柏真雪嬢は溌剌とふて腐れていた。
「人の執務室まで来て云う事がそれかい?真雪」
「だぁって、つまんないんだよう、ママ。今日だって・・・・・」
 
『生意気なんだよ、テメーら兄妹は!』
とか云う解ったような、解らないような理由で見知らぬ軍人に絡まれた。空戦の友人たちが手伝うといったが、それを片手で制して一人で対峙した。
(ひー、ふー、みー・・・七人・・・。時ちゃんに喧嘩売る自信が無いからこっち来たってワケか・・・)
何しろ真雪は可愛らしい美少女である。ナイフをちらつかせている男たちはすっかり怯えているものと信じている。
が、そんな男たちの希望に添ってやる義理など真雪には無いのだ。
父親そっくりの冷笑を浮かべると、男たちに向かって言い放った。
『雑魚』
男たちが思わず呑まれたその隙をついて、真雪の必殺の一撃が一番近くにいた男にのめりこむ。
全員が地に薙ぎ付されるまで1分かからなかった。
 
「ってな感じでショッカーより弱かったんだから!もー、最近碌な喧嘩してないから体がなまっちゃう。時ちゃんは「メンドクサイ」とか言って相手にしてくれないし・・・」
「・・・・・誰に似たんだろうねぇ・・・お前の喧嘩好きは・・・」
軽くため息をつきながら、ヤンは言う前から気付いていた。彼の父親、ヤン・ルーシェンに似たに決まっているのである。
「でも、本当にマユキちゃん強かったです。ミトキが強いのは知ってたけど・・・」
横で一部始終を見ていたユリアンが賞賛のため息混じりに証言する。
そこに、MPの報告をくすねて来たシェーンコップが割り込む。
「ちょいと調べてきたんですがね、お嬢に喧嘩を売った連中ですが全員捻挫以上の怪我はしてませんでした。いい腕だな、お嬢」
薔薇の騎士連隊13代目の隊長の賛辞を無邪気に笑って返す。
「これぐらい出来ないとパパの娘だって名乗れないんです。柏と言う姓もですけど・・・。あっ、ママが相手してくれるのでもいいよ」
「なぁにをおっしゃいますか。私は喧嘩はキライだよ」
「あのさぁ、ママ。最近街の皆から喧嘩してると流石パパの子供だって言われるんだよね。そんでもってその後に必ずママの子供にしちゃ手加減が上手だって言われるんだけど・・・・」
流石にばつが悪そうに少々顔を赤らめて横を向く。
「昔の話だよ。今は本当に何も出来ない、此処がフェザーンならともかくね。ったく、ディヴァだな。そんなこと言うのは・・・・あの馬鹿」
「此処がフェザーンならともかく・・・・じゃなくて、父さんの隣ならともかく・・・の間違いじゃないの?母さん」
息子の突っ込みに顔色も変えずにヤンが答える。
「黙秘権を行使します」
「「黙秘権を行使されます」」
ったく、お熱いことだ。とばかりに双子が肩をすくめる。
「ローゼンリッターの暇そうなお兄さんたちにでも相手にしてもらいなさい、雪」
「え?良いのママ!?」
明らかに弾んだ調子で言う娘にすかさず釘をさす。
「たーだーし、自分でお願いする事。くれぐれもお仕事の邪魔しちゃいけないよ」
親の権力を当てにしないなら好きにやれ。という意味だ。
その言葉を正確に受け取って、ローゼンリッターの元連隊長に少し子供っぽく問い掛ける。
「陸戦で一番暇そうな人って誰でしょう。できれば喧嘩好きな人で・・・」
「そうさなぁ・・・・」
軽く考える振りをした後、シェーンコップは明らかに手加減の無い笑みで言った。
「俺・・・かな」
 
「やっぱり、趣味は喧嘩かな?」
――おいおいおい、大変な事になったね。シェーンコップのおっさんと試合だってね。
「試合ちが―う。仕合いなの。手・あ・わ・せ」
――どうやらお祭り騒ぎになっちゃったみたいだけど、怪我しないでね。
「はーい!」
 
というわけで、マユキVSシェーンコップの「仕合い」の報は娯楽に飢えていたイゼルローンの人々に一気に広まった。ムライも勤務時間外にやるというのでしぶしぶ承諾したが、見物人たちは違え様も無く仕事をサボって見に来ていた。キャゼルヌがカミサマのような手腕を発揮して、何時の間にか手配した整理券を「売って」いる。売上は司令部にまわされるという手はずが付いているらしい。これのドコが勤務時間外なのだか・・・。
どこかでポップコーンを売っている音がする・・・・・。
そんな一種異様な雰囲気の中、お祭り好き男ポプランが叫んだ開始の合図と供に人々の間からうめき声が洩れる。
真雪が手にしていたトマホークをぶん投げたのである。と同時に一気に間合いを詰め、懐に飛び込んで肘を入れる・・・、のをシェーンコップがとっさにトマホークを立てて脇へ流す。
「うげ、裏蛇破山・朔光!母さん、まずいんじゃないか?雪絶対これが遊びだって忘れてるよ・・・いや、てゆーか、雪は遊びに命賭けるんだけどさ」
二人からは目を逸らさず横の一番良い席にちゃっかり陣取っている母親に言う。
反対隣ではユリアンが瞬きもせずに戦いを見つめていた。声も出ないらしい。
「あの必殺の肘を避けるか・・・やるねぇ、シェーンコップも」
「ああ、トマホーク避けた上でだしね・・・・って、止めなくて良いのかよ」
いささか非難がましく横を見ると・・・ヤンはうきうきとビデオを撮っていた。
「雪ってばお父さんそっくり(はあと)」
「・・・・・・・・・母さん」
うちの親って・・・。
「相手の手が読めないときはさっさと自分から仕掛ける。本当にお父さんそっくりだよ。その点お前は相手が動くまで微動だにしないんじゃないのかい?」
美時は眼だけで優しく笑っている母親に問い掛ける。何故解ったのか、と。
「私も・・・同じだったからねぇ」
自分の予感があたって心底嬉しそうにヤンが答える。
殺伐とした対決と興奮した観客の歓声を他所に、ヤンと美時はいたってほのぼのと親子の親交を深めていた。
 
――お取り込み中失礼します。美時君に質問です。美時君は真雪ちゃんと一緒に暮らしてるんだそうだけど。
「ええ、そうです。二人固まってると何かと便利なもので」
――「家事はどっちがやってるの?」
「掃除と洗濯は真雪が。料理は俺がやってます。キャリア10年。結構美味いんですよ」
 
 
何時の間にかシェーンコップは心情的に追い詰められていた。
どれほどの時間が流れたのだろう。心臓がバクバクいっている。汗が次から次へと流れ落ちてくる。
それは目の前の少女も同じであるはずなのだが・・・。
いや、シェーンコップにも理解が出来た。
(これは闘神の子だ。戦いの中に自分を見出すものだ。でなければこのような状況で笑えるものか。これほど、楽しげに)
鳥肌が立つ。
(恐い・・・・恐いよなぁ・・・)
何時しか、シェーンコップも我知らず笑っていた。全力で闘える相手を得た猛獣として
 
既に一時間近く経過していた。
ますます凄惨になる攻撃を人々は声も無く見守っていた。
ちなみに、ヤンのビデオは24時間耐久使用である。
「まったく、楽しげにやってくれちゃってまぁ・・・」
闘っているのは自分の娘だというのにもかかわらずのほほんと苦笑している。
「ほんと・・・父親そっくりだよ」
その言葉に軽くうなずくと、美時はあまり感情のこもらない声で言った。
「そろそろ、終るね」
その声にようやっとレンズから目を離すと、にっこり笑いながらも息子とほとんど代わらない口調で肯定した。
「ああ。真雪の負けだ」
 
その瞬間、確かに真雪はシェーンコップを見て笑った。・・・その瞬間、シェーンコップの拳がまっすぐに真雪のみぞおちに吸い込まれて行った。真雪は孤を描いて飛ぶ。
トサっというやけに遠い音を聞いてやっと我に帰ったシェーンコップは慌てて駆け寄ろうとするがその場に足をついてしまった。気が付けば膝が笑っている。
ギャラリーから割れんばかりの怒号に近い歓声があがっていた。
「無理しなくていい、シェーンコップ。あの娘は大丈夫だから」
そんな中、何時の間にかシェーンコップの背後に涼しい顔でヤンが立っていた。娘に向かって声をかける。
「ちゃんと浮身で飛んでいたんだろう?真雪」
「フシン?」
シェーンコップの疑問には美時が答えた。
「あたる瞬間に打撃と同方向に床などを蹴ってその衝撃を和らげる技です。結果的に吹っ飛ぶのは同じですが素直に当たるよりは随分マシです。あの状況からいくと、中将の体を蹴ったはずですが・・・」
「ひだり・・・ひざ」
てっきり気絶しているものとシェーンコップに思われていた少女が答える。
「ほら、大丈夫だった」
ヤンが近づいていって、顔を覗き込むと会場中に響くような声で叫んだ。
「ママーーーーーー!つっかれたーーーもう一歩も動けなーーい!」
いつもの屈託の無い(但し油断のならない)笑顔に戻っている。
「その割にはよく動く口だねぇ」
「ママ、だっこ」
「却下」
極上の笑顔で娘を素気無くあしらっておいて、なんだか厄介ごとを押し付けてしまったような部下を見る。
「悪いね、娘のわがまま聞いてもらっちゃって」
「構いませんよ、誘ったのは小官です。・・・・此処まで強いとは思いませんでしたが」
シェ―ンコップが座り込んだまま上官に敬礼する。
「言わないでくれ、このじゃじゃ馬が増長する」
その言葉に笑いながら、意味ありげに大の字に寝転がっている少女を見た後、ヤンに向かって問う。
「闘神の娘ですね、雪嬢は」
その言葉にヤンが思わず眼を細める。
「ああ」
何かを思い出すように嬉しげに首を傾げ、瞳に甘い色を湛えて艶やかに笑った。
「この子たちの父親は、鬼神だからね」
 
――さて、くたばってるトコ悪いんですが、ズバリ!「マユキちゃんの好みのタイプは!?」
「え?えーと、パパより頭切れてルックスよくって喧嘩強いヒト!」
「ふっ、一生独り身決定だね」
ノンブレスで言い切った娘の理想を、コンマ三秒で一撃粉砕する。
「ママ、さっきからノロケ過ぎ・・・」
力無く言うマユキの台詞も右から左だ。
「いいじゃないか・・・今まで惚気る相手もいなかったんだ」
――あはは、それはそれは。ご馳走様です先輩。ところで、性格についての注文はつけなくていいのかい?
「そりゃあ、あの男よりインケンな人間なんて存在しないからね」
まだ惚気の続きらしいヤンが、うっとりした表情でかなりヤバイことを言う。
「あっ、云っときますけど父は優しいです。子供の事とかにも気を配ってくれるし・・・。ただその態度が「人非人!」って叫びたくなるくらいインケンなだけで・・・」
一応、美時としてはフォローしたらしい。
――そう・・・ですか・・・
 
皆さんご存知の通り、この双子の父親はオスカー・フォン・ロイエンタールと言う名前で帝国はオーディンで高級将官をやっておいでです。
 
「さーてと。何時までも転がってないで・・・帰るよ、真雪」
「だーから、動けないんだってばさぁ!ママおんぶー」
「せっかく面白いものが見れたから美時と今日はご馳走作ろうねって話してたのに・・・」
しれっとした顔でヤンが言う。
「え?マジ?」
思わず反射で跳ね起きた真雪に優しく苦笑する。
「楽しかったかい?雪」
「うん!すっごく。シェーンコップ中将すっごく強かったし!」
興奮気味に語るが、しっかりこう付け加える事は忘れなかった。
「でも、パパの方がちょっとだけ強かったよ!」
その声にシェーンコップの顔に苦みばしった笑みが浮かび、すぐに消えた。
 
「俺はかなり本気だったんだがな・・・」
「え?」
真雪曰くの「仕合い」の三時間後。シェーンコップは美女と酒杯を傾けていた。
女は、先程の少女との対決の話かとも思ったが直感で違うとわかった。
「ヤン提督の事さ。あの人なら本気で愛せると思っていたんだが・・・」
「・・・」
「今日の一件でつくづく解ったよ。俺ではあの双子の父親には勝てない。負け惜しみを言うつもりじゃないが恐らく、この世の誰一人として勝てないだろう」
その言葉に、女は表情を変えるでもなく静かにグラスを傾けた。
その様子を見ながらシェーンコップが珍しく優しい眼差しで問い掛けた。
「で?お前さんはどうするつもりだい?グリーンヒル大尉」
「どう・・・とは?私は閣下の副官です」
やんわりと言ってから、少し考えた後続けた。その間がシェーンコップには言うべきか、言わざるべきか迷っているように見えた。
「愛される女にはなれなくとも、必要とされる人間にはなれます」
きっぱりとした、自信に満ちた台詞だった。
シェーンコップは黙ってグラスを合わせると、目の高さに掲げてみせた。
「心から尊敬の意を表する。フレデリカ・グリーンヒル大尉。貴方は強い人間だ」
「貴方も」
相手の瞳に自分と同じ決意を見出してフレデリカの目じりが緩む。
(この相手は自分と同じだ、己があの黒髪の魔術師に必要とされる限り全力を持ってそれに答えるだろう)
奇妙な連帯感だった。
「それにしても、これでますます双子の父親に興味がわいてきたな」
「きっと、あの二人の父親ですからさぞかし秀麗で聡明な方なのでしょうね」
 
「ママー――!お兄ちゃんが雪の海老さん盗ったー!」
「その前にお前が俺の肉盗ったんだろうが」
「にしても、マユキちゃん本当に凄かった。最後のほうなんて僕、立ってられなかったし」
「ユリアン、真雪の武勇を誉めるのも良いけどちゃんと食べなさい。なくなっちゃうよ」
三人の見事な箸捌きにフォークを咥えたまま付け入る隙が無かったユリアンだった・・・。
今日も平和である。
 
「おじい様、ウェンリーのところから小包が届いてますけれど」
「ほう、あの不精者がどうした?」
ヤンの曽祖父・柏栄と、又従妹の真沙輝である。
それは例のビデオと簡潔なメッセージカードであった。
『近いうちに帰ります』
「ほう、帰ってくるか」
「ドコまで信用できます事やら・・・」
(はよう帰って来、皆。お前たちが帰ってきたら・・・楽しみにしておれ、227回目の月花大祭じゃ)
老人は老人がまだ青年であったころの226回目の大祭を思い出す。あの時はあの祭りに参加できるのが誇らしくて堪らなかった。
(見ておれ・・・あれ以上の、いや歴史上存在し得なかったほどの祭りにしてやる)

 

 
懐かしいです。久々に発掘しました。「10月26日」もですけど。
むかし、ちぃこさんのホームページで「眠らない」をUPしてたころのです。
本気で昔です。もしかしたらそのせいで今と結構設定とか違うかもしれません。
マジ昔々です。FFXのとれとれチョコボが出来なくて出来なくてたまらなかったころです。
裏技使って、カモメにあたらなくしても、それでも記録がだせませんでした。
基本的に運動神経使うゲームはアホのように苦手です。
いやはや、頑張ってダメージ限界突破させましたよ。今となっては良い思い出です。


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